グローバルナビゲーションへ

本文へ

フッターへ



サイトマップ

検索

TOP >  コラム >  戒厳令(ラブレター)の結末

戒厳令(ラブレター)の結末


2025年4月
梅田 皓士
 韓国では、憲法裁判所が尹錫悦大統領に対して大統領職を罷免するとの判決を全員一致で下しました。この判決によって、直ちに尹錫悦は大統領職から離れるため、尹錫悦「前」大統領が正確な表記です。そして、60日以内に大統領選挙が実施され、新大統領が選出されます。

今回の大統領罷免は、2024年12月3日に尹錫悦大統領(当時)が非常戒厳令を発布したことが、憲法違反などと認定されたことが理由です。尹錫悦大統領(当時)は、多数を占める野党が閣僚などの弾劾を乱発したこと、予算案を一方的に修正したことなどを理由として非常戒厳令を発布しましたが、結果として、これらの理由は国家非常事態として認定されませんでした。そもそも、憲法で定められた国家非常事態は、戦時や内乱を想定したものです。そのため、尹錫悦大統領(当時)が挙げた理由には無理がありました。また、国会に軍隊を派遣して、入口などを封鎖したり、窓から侵入したことも国会の権利を侵害する行為でした。その意味においても、今回の憲法裁判所の判決は妥当と言えます。

筆者は、非常戒厳令が発布された際、ここで「155分間の戒厳令(ラブレター)」と題したコラムを出しました。そのコラムでは、非常戒厳令について「暴挙」としました。さらに、非常戒厳令を「金建希夫人を守るため」としました。前者については、今回の憲法裁判所の判決によってほぼ認定されました。また、後者については、今後も明らかにされる可能性は低いですが、筆者が言わんとしたのは、「尹錫悦大統領(当時)が政治的な権力が低下することへの恐怖心が非常戒厳令へと導いた」ということです。尹錫悦大統領(当時)の政治的な権力が低下することで、「疑惑」が指摘される金建希夫人を守れなくなるということを意味しています。ここで指摘している政治的な権力が低下するというのは、予定されていた韓国の政治日程から見ることが出来ます。なお、この議論については、本研究所機関誌『海外事情』2025年3・4月の「刮目レポート」で論じているので、そちらをご覧下さい。

今回、憲法裁判所が大統領を罷免する判決を下したことで、「ラブレター」の結果は、完全に権力を失うことでした。また、現在、最大野党共に民主党の李在明代表が次期大統領として有力視されています。そのため、今後、尹錫悦前大統領は、職権乱用などでの刑事訴追の可能性が高まります。さらに、これまで尹錫悦前大統領が拒否権を行使してきたことで、本格的な捜査を逃れていた金建希夫人への捜査も本格化することでしょう。金建希夫人を守ろうとしたことが、逆に自身や金建希夫人への捜査などを早める結果となりました。前回のコラムは「金建希夫人へのラブレターはどこからどこに送ることになるのでしょうか」とまとめましたが、今回の判決を受けて、「刑務所から刑務所へ」の可能性も生じました。その意味では、「ラブレターの結末」は、本人が思わぬ結果になってしまったと言えるのではないでしょうか。