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防衛装備移転三原則の改訂について


2024年1月
佐藤丙午
 2023年12月に、防衛装備移転三原則の運用指針の改訂が行われました。今回の改訂は、23年度初頭より継続的に実施されてきた、与党WTの検討結果を受けたものです。

 与党WTは、三原則自体の再検討など、包括的に三原則及ぶ運用指針の活用方法の検討を重ねてきました。12月の運用指針の改訂では、日本国内で製造されるライセンス製品の本国への「戻し移転」など、日本の安全保障政策にとって重要な内容が含まれています。

 ただ今回の改訂は、日本が政策として防衛装備移転を活用する上で、手段の一つを解禁したものであって、中間点の一つと解釈すべきでしょう。本コラムでは、残された課題を説明したいと思います。

 防衛装備移転は、外交安全保障政策(特に日米関係を中心とした)や防衛産業政策など、複数の政策的な含意を持ちます。それをふまえ、今後検討すべき内容として、第一に、政策手段として活用するための制度インフラを整備する必要があります。日本の防衛装備移転に関係する政策には、外務省が管轄するOSA、経済産業省が関わる安全保障貿易管理(特に通常兵器移転を中心とした)と産業政策、そして防衛省が中心となって進める防衛協力が存在します。それらは、場合によっては相反するベクトルを持ちます。したがって、政策間の整合性をとるための意思決定に関する制度を構築する必要があります。

 第二に、防衛装備移転に関する政策上の優先順位を決める必要があります。日本の防衛産業は、一般的に考えられている程、世界で優位性を持っているわけではありません。また、日本初の革新的な兵器を生み出す能力を持っていません。さらに、自衛隊に必要な、また彼らが求めている防衛装備を、日本の防衛産業が提供できる能力が低下しています。これを改善するためには、防衛産業を国際競争の元で独自の技術開発や市場開拓を進める必要があります。しかしこれは、抑制的な防衛装備移転政策を維持してきた日本にとって、大きな政策転換になります。自国の防衛産業の競争力を高めるためには、大規模な政府の支援と協力が必要になりますが、それを完全に許容する国内環境にありません。この異なる要請に対し、そのように優先順位をつけるかが重要な課題になります。

 第三に、防衛装備移転には政策的にポジティブな側面が多いですが、市場のトレンドの変化、政治状況の変動、大規模な初期投資の必要など、さまざまなリスクを抱えます。防衛産業にすると、リスク管理を政府が主導しないと、積極的に関わることは避けようと感じるでしょう。リスク管理は、防衛産業に対する経済的な「補償」制度を準備することではありません。過大な製造能力の構築は、企業の経営を圧迫すると共に、需要が減った際には大きな負債になります。このため、既存の生産設備を活用する際の需給バランスの管理と、新規投資に関するリスク管理を行う必要があります。この問題は、需要の量と質を調整できる政府にしか解決できません。

 このように、日本の防衛装備移転をめぐる政策面、あるいは防衛生産面での課題が多く、これらを政府が政策的に整備する「道具」を活用して解決する必要があります。防衛装備移転は、それ自体を行うことが目的なのではなく、それを政策の手段として利用することが必要です。2023年12月の中間点を超えて、政府がどのような方向性を示すか、注目されているのです。