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安保三文書の意義と今後の課題


2023年8月
番匠 幸一郎
 2022年12月いわゆる安保三文書が策定され、我が国の安全保障に関する戦略体系が充実されることになりました。反撃能力の保有や今後総額5年間で総額43兆円の防衛予算が計上されるなど、防衛力の抜本的強化が図られることは大きな意義があると思います。長年、防衛に携わって来た者として隔世の感があります。しかし、安保三文書と43兆円の防衛予算が決まったからと言って自動的に防衛力が完成するわけではありません。文書の策定はあくまでスタートであり、これからが本番です。そこで本稿では、今後の政策面の課題として2つの点を取り上げてみたいと思います。
 その第1は「専守防衛」についてです。「専守防衛」とは「相手から武力攻撃を受けたとき初めて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略の姿勢」というのが政府の公式見解です。しかし、今やここには本質的な矛盾が顕在化しているのではないかと思います。なぜなら、現在私たちがウクライナ戦争で目撃しているように、相手に攻撃されてから初めて反撃するということは、侵攻の当初から国民の犠牲が発生することを前提にしているからです。その態様も「自衛のための必要最小限にとどめ」とされていますが、侵略されたら国家・国民を守るため最大限の力で反撃し敵を撃退するのが当然ではないでしょうか。最も大切なことは国家の主権と国民の命を守ることであり、決して理念や理屈を守るために国民が犠牲になってはならないはずです。その意味で「専守防衛」の考え方は時代に合わなくなっているのではないかと思います。
 もう一つが「非核三原則」の在り方です。「国家安全保障戦略」では「非核三原則を堅持するとの基本方針は今後も変わらない」とされています。しかし、中国・ロシア・北朝鮮という先制主義の核保有国に囲まれ、米中対立の最前線にある日本は、歴史的にも非常に厳しい戦略環境にあることを認識する必要があると思います。この中で、日本が現実から目を逸らし本質的な議論を避けて、無条件に「非核三原則」を順守することだけで良いのでしょうか。例えば、日米同盟に基づく拡大抑止の強化のため、米国が戦術核兵器の日本国内への展開・配備を求めて来た時、日本が「非核三原則」第3原則の「持ち込ませず」に固執して米国の提案を拒否することが、果たして国家・国民を守るための適切な選択なのでしょうか。「持ち込ませず」を謳った第3原則の早急な見直しを含め、我が国として核抑止戦略を率直に議論する時期に来ているのではないかと思います。
 安保三文書の策定は大変画期的で有意義なことですが、それを防衛力の強化と実効的な運用につなげていくためには、政策、法制、防衛力整備など官民が一体となって解決していくべき課題がまだ山積していると思われます。まさにこれからが本番ということではないでしょうか。