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2024年台湾総統選挙の注目点


2023年4月
門間 理良
 台湾では2024年1月13日(土曜日)に総統選挙と立法委員(国会議員)選挙が同時に実施されます。今回の総統選挙では、2期8年を務めた蔡英文総統の退任に伴う新人の争いであるとともに、8年ごとに政権交代してきた台湾で再び政権交代が実現するのか、民進党が政権を維持するのかが注目されています。総統候補の実質的な選挙活動も5月から本格化することになりますが、このコラムでは選挙戦を見ていく際の注目点をおさらいしたいと思います。

 まず、政権与党の民進党は党主席で副総統でもある頼清徳氏を公認候補としました。頼氏は独立傾向が強い人物と目されていますが、総統選挙ではそれを完全に封印し、中台両岸の現状維持を目指す蔡英文路線を踏襲することを明言しています。これは台湾における大多数の民意に沿ったものと言えるでしょう。

 他方、野党第一党の国民党は4月21日時点で公認候補を確定させていません。最有力とされているのは、新北市長を務めている侯友宜氏ですが、いまだに出馬を明言していません。このほかに同党主席を務める朱立倫氏や、2019年に総統候補を選出する国民党内予備選挙に敗北し、離党してまで総統選挙出馬の道を探り結局は断念した郭台銘氏の名前が挙がっているものの、各候補には一長一短があります。

 侯氏は民衆からの期待と支持は高いものの、警察官僚出身で政治家に転身して以降も地方での業務のみだったため、総統選挙で争点となる中台関係や対米関係をどうしていくのか、未だにそのビジョンを明確化していません。朱氏は私の見るところ、強力なリーダーシップを発揮するタイプではありません。調整型の安定した人物で米国との繋がりもありますが、台湾民衆の支持は大きくないのが弱点です。郭氏は鴻海を一代で国際的大企業に作り上げた経営手腕は目を見張るものがありますが、国民党に復党していないことが最大のネックです。また、本人は中国指導部とも話ができる人物を売りにしているものの、それが必ずしも総統選挙で有利に働くとは限りません。

 というのも、いまの台湾民意は「台湾は台湾であり、中国とは違う」という台湾アイデンティティが完全に根付いているからです。2019年から20年にかけての香港の状況は、中国が唱えてきた「一国二制度」を拒否していた台湾民衆の気持ちをさらに固めることになりました。国民党指導層も台湾アイデンティティの伸長は理解しているものの、馬英九前総統のように中国そのものにシンパシーを抱く外省人勢力(特に老退役軍人)の影響力を無視できるまでには至っていません。国民党とすれば、台湾の総体的民意とずれている党としての対中姿勢を修正できるか否かが総統選挙の勝敗の鍵を握っているのです。

 その点で民進党はやや有利と言えるでしょう。2022年11月に実施された統一地方選挙直後の民進党はボロボロで24年の総統選挙も国民党が政権を奪還する可能性が高いと見る向きもかなりありましたが、その後は立法委員補選での勝利や国民党の敵失もあって、現在は五分五分の状況まで戻してきました。

 今後は民進党以外の候補者の勝利を望む中国からの認知戦も本格化してくるものと予想されます。ロシア・ウクライナ戦争の推移や米国の台湾海峡問題への関わり具合なども総統選挙に一定程度の影響を及ぼすものと考えられます。政治の変化の速度が速い台湾ですが、これらに注目しながら観察していくと、総統選挙の推移をより正確に見ていくことができるでしょう。