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「時代の割れ目」に埋没する日本 ―アフター・ウクライナの世界―


2023年3月
川上 高司
 今の世界情勢を俯瞰するならは、我々は、今、「時代の割れ目」に落ち込んでいると言えよう。「時代の割れ目」に人類が落ち込んだ時、地球規模での地政学的な地殻変動を目の当たりにする。第二次世界大戦後は米露対立の「第一次冷戦」であり、ウクライナ後の米中対立は第二次冷戦」と呼べるだろう。
 「第一次冷戦」は軍事を中心に政治、経済、イデオロギーの次元で戦った。今回の「第二次冷戦」は宇宙、サイバー、認知、エネルギーなどのオールドメイン(全領域)で戦う。共通点は代理戦争だ。「第一次冷戦」はベトナム、アフガンなどで争われ、「第二次冷戦」はウクライナと台湾である。「第二次冷戦」は外交面での陣取り合戦としてスタートした。アメリカは民主主義の危機という専制主義からの「デカップリング(対立)」、中国はグローバリズムという「カップリング(和平)」というキーワードで国際秩序の再編を競い合う。
 バイデン大統領は3月13日、いまは向こう10年の世界を左右する「変曲点」だと強調し専制主義国の脅威を訴えると同時に民主主義国の結束を訴えた。一方、習近平国家主席は「米国が主導する西側諸国は全面的な封じ込め、包囲、抑圧を実施し、我々の発展にかつてない厳しい試練をもたらした」と米国を批判する。
 その先鋭的なフラッシングポイントとなっている舞台が、中東、ウクライナ、台湾それにグローバルサウス(南半球を中心とした途上国)である。
 中東で、中国はサウジアラビアとイランの外交正常化を仲介した。米国が強い影響力を保ってきた中東で、しかもバイデン政権がサウジとイスラエルの関係改善に注力していた頭越しに中国は「主役」を演じた。
 また、ウクライナをめぐる米中の駆け引きも熾烈を極める。習近平国家主席は3期目入った直後にロシアを訪問し、プーチン大統領にウクライナ和平案を提示し、仲裁役として「平和」の使者というイメージを国際的に強めた。ウクライナと中国はもともと親しく、3月29日にゼレンスキー大統領は習近平をウクライナへ招待した。この動きに対し、米国は「戦争の継続」を訴え民主主義同盟の強化を訴える。
 ウクライナアナロジーが懸念される台湾にいたっては、蔡英文総統3月30日にNYに到着し、カリフォルニア州で共和党のマッカーシー下院議長と会談。下院議長は大統領継承で第2位にあり重鎮となる。これに対して、台湾の馬英九前総統が中国を27日から訪問。総統経験者の訪中は1949年の中台分断後で初となる。台湾をめぐる米中の熾烈なハイブリッド戦は来年1月の台湾総統選挙でピークを迎えよう。
 また、米中覇権競争の舞台はグローバルサウスを巻き込んで広がっている。グローバルサウスの国々は、米中の覇権争いが激化する中、中立を保とうという「第3極」であるが、ここにも中国の影響力は広がっている。これに対して、米国バイデン大統領は3月29日、約120の国や地域の首脳などを招いて「民主主義サミット」を開き、中国やロシアを念頭に民主主義国家の結束を呼びかけた。
 日本の岸田総理は中露首脳会談に合わせてウクライナ訪問をし、6月のG7広島サミットの議長国としての存在感を示した。日本は「第二次冷戦」では民主主義陣営として参戦しているが台湾とともに戦域となる可能性が高い。日本は台湾とともに民主主義を守る戦争当事国となる自覚が政府はあるのか、その説明を国民にすることが求められている。