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何か空疎な「安保3文書」


2023年2月
荒木 和博
 昨年12月16日、政府は「国家安全保障戦略」・「国家防衛戦略」・「防衛力整備計画」のいわゆる「安保3文書」を閣議決定しました。現場との齟齬もあるでしょうし、これから様々な調整をしていかなければならないとは思いますが、ともかく国家安保の方針を打ち出したことについては多としたいと思います。
 しかし、この3文書の中で拉致問題についての言及は「国家安全保障戦略」に一言入っているだけです。
 「北朝鮮による拉致問題は、我が国の主権と国民の生命・安全に関わる重大な問題であり、国の責任において解決すべき喫緊の課題である。また、基本的人権の侵害という国際社会の普遍的問題である」
 「喫緊の課題」という割にはその後の「国家防衛戦略」にも「防衛力整備計画」にも拉致問題に関する言及はありません。在外邦人保護の部分にも全く拉致被害者を想定した文言はありません。つまり、具体的にどうやって「解決」するのかは全く書かれていないということです。何か空疎な感じが拭えないのは私だけでしょうか。
 北朝鮮の核もミサイルも重要な問題でしょう。しかし、それらはまだ被害が出ているわけではありません。北朝鮮はミサイル乱発で通常兵力はもはや全面戦争など夢のまた夢、メシを食うのが精一杯という状態です。13年前の哨戒艦「天安」撃沈や延坪島砲撃のように、ごく限られた地域で局地戦をやることはできるでしょうが、それ以上の大規模な戦闘は絶対にできません。弾道ミサイルだけでは戦争はできません。
 一方、拉致問題は被害が出て、その被害が継続しており、被害者は北朝鮮にいるのです。これこそ本来国家安保戦略の中心に据えられて当然ではないでしょうか。北朝鮮が核・ミサイル開発を止めればそれは「解決」ですが、既に長期間にわたって被害が出続け、拉致の途中で殺害された可能性のある人(寺越昭二さん等)もいる拉致事件には「進展」はあっても「解決」はありません。
 だからこそ「安保3文書」には具体策は書けなかったのかもしれません。しかし長年に渡って工作員が北朝鮮の国家意思によってほぼ自由に日本の領土に密出入国を繰り返し、拉致をはじめとする不法行為を続けてきたことを考えるとき、やはり大事なことが抜けているのではないかと思わざるを得ないのです。