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危機がエスカレートするウクライナ侵攻


2022年10月
名越 健郎
 長期化するロシア軍のウクライナ侵攻は、9月に一つの転機を迎えました。
 ウクライナ軍が反転攻勢に出て、北東部のハルキウ州を解放、「6000平方キロを奪還した」(ゼレンスキー大統領)としています。
 プーチン大統領はそれまで、「特別軍事作戦は予定通り進んでおり、動員は考えていない」とやや悠長でしたが、9月21日の演説で、部分的な動員令を発動し、ウクライナ東部と南部をロシアに編入する住民投票を容認しました。
 ロシア連邦への編入手続きは10月に完了する見通しで、これにより、ロシアのウクライナ侵攻は「特別軍事作戦」から、「ウクライナのロシア侵攻」の形になり、二国間の本格戦争に発展しかねません。
 プーチン大統領が対応を豹変したのは、ウクライナの攻勢を食い止め、国民の危機意識を高める「背水の陣」と言えます。
 しかし、戦争を他人事とみなしていたロシアの若者は、突然戦争を身近に感じ、徴兵拒否や国外脱出など、ちょっとしたパニックが起きています。
 多くの若者が戦場に行くのを嫌うのは、一つにはこの戦争が大義名分のない侵略戦争だからでしょう。
 もう一つは、ネットなどを通じて外国の情報を知り、ウクライナ軍が欧米の新型兵器で武装し、殺されることを恐れているためと思われます。
 米国は5月にウクライナへの武器供与法を制定し、10月ごろからいよいよ運用が本格化します。ウクライナの報道では、米国防総省にウクライナへの武器支援本部が設置され、兵器供与が促進されます。
 ウクライナが望む長距離ミサイル砲なども提供されそうです。英国やドイツも自国産戦車、装甲車の使用法をウクライナの将兵に訓練しており、彼らが兵器と共に前線に向かうようです。
 対するロシア軍は、兵器は老朽化し、戦術も古臭く、情報戦でも負けているとあって、通常戦力では勝ち目はなさそうです。
 プーチン大統領は21日の演説で、「西側はロシアと国民に対して際限のない脅威を与え、長距離攻撃兵器をウクライナに搬入しようとしている」「西側の目標はロシアを弱体化させ、滅ぼすことだ」と危機感をあらわにし、「わが国の領土保全に脅威が生じた場合、利用可能なすべての兵器システムを必ず使用する」と警告し、「これはハッタリではない」と付け加えました。
 しばらく封印していた「核の恫喝」を持ち出したことは、大統領の焦りや苛立ちを示しています。
 戦況のエスカレーションが危惧され、関係国間でギリギリの神経戦が展開されそうです。