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プーチン氏の「暴走戦争」


2022年4月
名越健郎


 2月24日に始まったロシア軍のウクライナ攻撃は、ロシアの戦争というより、「プーチンの戦争」です。プーチン大統領が決断し、最高司令官として攻撃命令を下しました。従って、停戦もプーチン氏が自ら決めることになり、なかなか譲歩しそうにありません。

 ウクライナの情報機関幹部はブログで、「この戦争を望んだのは、世界に2人しかいない。プーチンとショイグ(国防相)だ」と書いていましたが、確かに、兄弟国家のウクライナを無差別攻撃することを支持するロシア人はあまりいないでしょう。ロシア軍の戦意が低いのも、無理もありません。

 ショイグ国防相については、軍の資金着服など汚職・腐敗で検察の捜査を受けており、強行突破するため、開戦を望み、部下に作戦計画を作らせたとの未確認情報がありました。

 とはいえ、ウクライナ攻撃が、プーチン氏個人のプロジェクトであることは間違いありません。背景には、同氏の歪んだ歴史観がありそうです。

 プーチン氏は就任翌年の2001年、国民とのテレビ対話で、今どんな本を読んでいるかと聞かれ、「エカテリーナ女帝の統治に関する歴史書だ」と答えたことがあります。

 18世紀の女帝の時代、帝政ロシアはトルコとの数度の戦争でウクライナ東部やクリミアをロシア領に編入しました。KGB(国家保安委員会)出身のプーチン氏は、ソ連に思い入れがあるとみられがちですが、実際にはソ連指導者を酷評し、エカテリーナ女帝など強力な皇帝を称賛しています。

 ペスコフ報道官によれば、プーチン氏はコロナ禍の隔離生活で、帝政ロシア時代の歴史書を読み漁っていたそうです。

 プーチン氏は二月の開戦演説で、「ウクライナは手違いで独立国になった」「ウクライナはロシアの歴史、文化、精神空間に不可欠の一部だ」と述べており、「ロシア固有の領土」の属国化を一気に狙ったようです。

 これは歴史の妄想であり、現代の国際法や国際秩序には通用しません。マクロン仏大統領は「プーチン氏は3年間で別人になってしまった」と述べていましたが、コロナ禍が歴史妄想を高ぶらせたかもしれません。

 大義名分のない侵略戦争は、欧州や世界の安全保障に重大な打撃を与えました。核大国が暴走すれば、手が付けられない現実を世界に突きつけました。

 「プーチンの暴走」を止められるのが、プーチン氏だけというのも困った現実です。