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AUKUSの衝撃


2021年10月
佐藤丙午
2021年9月のバイデン大統領によるAUKUSの発表は、まさに世界を揺るがす12分間でした。

その前月の米軍のアフガニスタン撤退の衝撃が冷めない中、米国、英国、豪州による「三カ国同盟」の発表は、国際社会が新たな段階に入ったことを印象付けました。AUKUSの発表では、その目的が中国への対抗とは明言されていません。しかしそれを「新冷戦」と呼ぶ人もいると思います。発表の中心であった、豪州に対する米国の原子力潜水艦輸出の発表、さらには、グローバルな役割の回復を表明していた英国のインド太平洋への回帰を枠組み的に担保することが、意味するところは明確だと思います。

このように、AUKUSの発表の中核には、2016年に豪州がフランスと合意した通常動力型の潜水艦の契約を破棄し、米国の原子力推進型の潜水艦を輸入するとの決定があります。豪州のコリンズ級潜水艦の後継艦の入札では、日本も「そうりゅう」型の潜水艦の輸出を試みましたが、フランスに契約を奪われています。豪州は今回、フランスとの契約を破棄して米国の原子力潜水艦を選択したことになります。これにより、インド洋や南太平洋における豪州の作戦運用能力は将来的に大幅に向上することになります。

ただし、契約を破棄されたフランス側にすると、たとえ違約金を入手したとしても、怒りは収まらないのは理解できます。実は当初より豪州が想定していた潜水艦の作戦運用では、原子力潜水艦の導入が合理的であるとは指摘されていました。しかし、国内に原子力産業のない豪州にすると、原子力潜水艦の導入は壁が高く、なおかつ核不拡散の観点から、簡単に導入はできないと考えていたようです。フランス側も豪州の事情は理解しており、通常型潜水艦の輸出を進め、将来原子力動力への切り替え(数隻目以降)を示唆していました。今回の米豪の決定は、これら配慮に対する裏切りとも写っているようです。

かつて、アイゼンハワー政権期に米国が英国とのみ核技術の共有を進める決定をした際、フランスのシャルル・ドゴール大統領はこれを「アングロ・サクソン」による核能力の独占を目指すものとして反発し、独自の核兵器の開発の道に進みました。米豪の合意やAUKUSによる同盟強化は、本質的には中国に対する抑止や対処能力の向上に貢献するのでしょうが、フランスの反発により、欧州諸国が対中政策で英米と歩調を合わせなくなる可能性はあります。

したがって、AUKUSは新たな国際秩序の確立ではなく、この後、フランス、日本、ドイツ、インド、台湾など、同盟国や友好国を取り込んだ新たな枠組みを構築し、それを通じて地域の平和と安定を模索する必要があります。今後の展開に注目する必要があります。