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プーチン政権長期化は、「KGBの復讐プロジェクト」?


2021年8月
名越健郎


ソ連邦が崩壊して今年で30年ですが、この間プーチン時代が21年と3分の2を占めています。憲法規定では、プーチン氏は2024年の次回大統領選にも出馬でき、最長で2036年までの続投が可能です。その場合、プーチン氏は36年間政権を担当し、30年弱のスターリンを抜いて、20世紀以降のロシア史で最長在任の指導者になります。

プーチン時代がこれほど長期化する理由は、大統領の一元支配が強固なこと、野党や反政府勢力が無力なこと、国民が1990年代の社会・経済混乱の復活を恐れていることなど多くの要因が指摘されています。

その中で、英紙『フィナンシャル・タイムズ』の元女性モスクワ特派員、キャサリン・ベルトン記者が2020年に出版した『Putin's People』( Farrar Straus & Giroux)は、プーチン政権の内幕を詳細に調査し、「KGB(旧ソ連国家保安委員会)のOBクラブがソ連崩壊後の国家機関と経済を密かに、かつ確実に牛耳った」と書いて、欧米の専門家の間で話題になっています。

642ページの分厚い同書は、邦訳はまだありませんが、プーチン氏が1980年代後半、KGB将校として旧東独のドレスデンに駐在し、西側の犯罪組織と接触してかく乱工作に従事したこと、90年代にサンクトペテルブルク副市長として、港湾の組織犯罪と連携して違法に資金を確保したこと、政権掌握後はKGBの同僚らを政権に招いて金融ネットワークを掌握したことなどを関係者への取材で浮き彫りにしています。

プーチン独裁に移行する決定的な転機は、2003年に反政府的な石油最大手、ユコスを一網打尽にして国有化したことで、それ以来、プーチン氏はまるで皇帝のようにロシアとその資源を支配し、友好的なオリガルヒ(新興財閥)と旧KGBの幹部に支えられている-とベルトン氏は書いています。

2002年10月に人質100人以上が死亡したチェチェン共和国独立派によるモスクワ劇場占拠事件についても、大統領側近のパトルシェフ連邦保安局長官が「プーチンの権威を高めるために仕組んだ」と告発しています。この事件では、側近のセチン・ロスネフチ社長がテロリストを気絶させるため致死性の化学ガスの使用を決めたという記述があり、ロスネフチ社は英裁判所に名誉棄損で著者を告訴しました。

クレムリンのカネと権力の謎を追った同書は、「冴えないKGBの中堅将校らが、富を集めるという資本主義の欲望と、ロシア帝国の復活というビジョンを結びつけた」としており、プーチン政権長期化は、「KGBの壮大な復讐プロジェクト」というのが結論のようです。