グローバルナビゲーションへ

本文へ

フッターへ



サイトマップ

検索

TOP >  コラム >  内政干渉

内政干渉


2021年7月
富坂 聡
日本と中国を長く見てきた経験から、昨今の日本の対中感情の悪化が心配です。日本が再び反中「病」を患い始めたからです。

中国と向き合う個人や団体、国はなぜか分断の末に社会が蝕まれます。日本版「パンダ・ハガー」対「ドラゴン・スレイヤー」なのか日本の政界にも古くから「親・反中」の対立があり、メディア界では「朝日新聞」と「産経新聞」の対立もあります。この根底にあるのは、中国恐怖症です。

過度に中国を意識すれば好悪や善悪に引きずられ、本来、国際社会で不可欠な「利害」の判断が揺らぐのです。特定の国への恐怖症が無意識のうちに視野狭窄を招くからです。

その結果、「予測」と「願望」の区別が失われます。日本の書店の国際政治欄に「中国崩壊本」が所狭しと並ぶのは典型的です。国際政治分析は占いではありませんが、なぜか予言は手を変え品を変え出続けます。とても不思議です。

ここ数年、トランプ大統領が中国という憂苦を吹き飛ばす「希望の星」でしたが、その過程では東アジアが火の海になり、日本も無事では済まないのは自明です。

昨今は香港とウイグル族の問題に夢中で、台湾問題にも口を挟む悪乗りも見られます。

人権や自由のために戦うのは当然――。そんな声が聞こえてきそうですが、国際社会はそんな甘い考えで動いているのでしょうか。

そもそも日米の思惑の一致も怪しいのです。アメリカが中国に攻勢をかければ、それなりに得られるものがあります。日本は違います。

中国が最大の貿易相手という手垢のついた話ではありません。例えば、日本が口実にする安全保障はどうでしょうか。

日本の視点で抜け落ちているのは、将来、米中が急接近する――かつてのニクソンショック――可能性や中国がアメリカを凌ぐパワーを身に着けアジアに君臨するという未来です。安全保障の基本はあらゆる変化を想定して最悪に備えることです。大丈夫でしょうか。

いま中国は、日本が香港・ウイグル問題に口を出すことを内政干渉だと非難します。それに対し日本には「人権問題だ」と撥ね付ける声が多いようです。しかし今後も隣国同士、関係が続けば攻守の逆転も考えるべきです。

例えば沖縄です。中国が肥大化し、人権を口実に沖縄への野心を剝き出しにしたとき、日本がかつて香港・ウイグル問題に口を出したことを逆手に取られるでしょう。未来の日本人には重い宿題となります。

しかも香港やウイグル族の人々がそんな日本に感謝し続けるとは限りません。政治の風向きは気まぐれです。かつて香港で起きた「反日デモ」の激しさを思い出せば明らかです。

さらに深刻なのは台湾問題です。

日本は中国との国交正常化に際し台湾と断交しました。「一つの中国」の原則のためですが、それをいま日本が無視すれば日中平和友好条約違反です。日本は今後中国の条約違反を問いたくてもできなくなりますが、問題はそれにとどまりません。中国の台湾統一の本気度を考えればその先には戦争もあるからです。日本にそんな覚悟があるでしょうか。

戦後の世界秩序は国連が中心です。そして日本はいまだ敵国条項を背負っています。戦前の軍国主義などを国連が敵視しているからです。その日本が対中侵略の象徴・台湾に口を出すことを中国が本気で問題視すれば、当然、「日本が再び野心を復活させた」と大宣伝を打ってくるでしょう。

日本に対する宣戦布告は国連憲章違反ではありませんから、将来、日本を攻める口実には十分です。このときロシアや北朝鮮はどう動くでしょうか。韓国は、どうでしょうか。

現状、アメリカという「重し」があればこそ頭の体操ですが、未来は分かりません。こんな危険な環境をわざわざ経済を犠牲にして作り出そうという日本とは何なんでしょうか。