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アラブの春から10年


2021年4月
野村明史


中東で民主化運動「アラブの春」が起こってから10年が過ぎました。

長期独裁政権と経済悪化に希望を失った若者の焼身自殺を契機にチュニジアから始まった「アラブの春」は瞬く間に周辺諸国へと広がりました。エジプトでは大規模デモによって約30年続いたムバーラク政権が退陣し、リビアでも反体制派が武力衝突を経て、40年近くに及んだカダフィー政権を打倒しました。

しかし、ムバーラク政権後、民主的な形で誕生したムルシー政権はクーデターによって倒され、エジプトでは再び軍主導の権威主義体制が敷かれました。リビアもカダフィー政権崩壊後、国内の勢力は2分化し、未だ内戦状態が続いています。また、シリアでも、親子2代にわたるアサド政権と反体制派の武力衝突が繰り広げられ、国土は荒廃し、多くの難民が発生しました。

「春」はすぐに厳しい「冬」へと変わりました。そのような現実を前に、他のアラブ諸国でも高まっていた「民主化」の声は、いつの間にか聞こえなくなりました。

振り返れば、フランスなどの欧米諸国でも民主化が達成されるまでには、様々な困難を伴いました。フランスでは、絶対王政に怒れる市民がバスティーユ牢獄を襲撃し、フランス革命へと転化しました。その後、革命は成功して絶対王政は倒れましたが、ナポレオンによる軍事独裁政権など様々な困難を経て、現在の民主主義へとたどり着きました。

日本も明治維新や2度の大戦など多くの苦難を経験して、現在の民主主義の形が定着しました。その間、多くの先人たちが耐えがたい犠牲を払ってきたことは言うまでもありません。

欧米を中心とする先進国はしばしばアラブ諸国の民主化について声を上げることがありますが、現在も部族社会やイスラーム文化が根強く残る同地域で、民主化を浸透させることは容易ではないでしょう。そして、何よりも、現在、多くのアラブの民衆は、そのような混乱が起こることを望んではいません。
3月に米アラスカで開かれた米中外交トップ会談で中国側の代表は「中国には中国式の民主主義がある」と述べ、アメリカの人権外交に苦言を呈しました。アラブにもアラブ式の民主主義があり、民主化に至るまでには多くの時間が必要となります。

先進国はアラブの「冬」となった現実を直視し、恣意的な「民主化」の押し付けを今一度見つめなおす必要があるでしょう。