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米国で増加するアジア系へのヘイト


2021年3月
玉置充子


米国では、新型コロナウイルスの感染拡大が止まらないなか、アジア系住民に対するヘイトクライムと考えられる事件が増加しています。報道によると、2020年3月から12月までの間に2800件を超える事件が報告されたそうです。今年に入ってからも、カリフォルニア州オークランドのチャイナタウンで91歳の男性が背後から突然押し倒され、亡くなるという痛ましい事件が起きました。また、2月8日にはサンノゼの日本人街にある日系人記念碑にいたずら書きがされる事件が発生するなど、アジア系のコミュニティには不安が広がっています。

2020年に米国でアジア系住民に対するヘイトクライムが増加した背景には、トランプ前大統領が新型コロナウイルスを「チャイナウイルス」と呼んで、アジア系へのヘイトを煽るような発言を繰り返したことがあると指摘されています。それだけでなく、米中対立激化の影響や、19世紀の「黄禍論」から続くアジア系住民に対する根深い差別意識がコロナ禍で表面化したという見方もできるでしょう。

「アジア系」とひとくくりにされていますが、そこには当然さまざまなルーツの人々が含まれます。近年、米国のアジア系住民の数は増加を続けていて、近い将来、ヒスパニックの人口を超えると予測されています。現在、米国のアジア系人口は約2200万人で総人口の7%程度を占めます。そのうち中国系が500万人で最も多く、フィリピン系、インド系、韓国系、日系と続きます。アジア系住民は、米国の移民の中で最も経済的に成功し、教育水準が高いと言われています。また「勤勉で忍耐強く従順」な「モデル・マイノリティ」と呼ばれ、反撃などしてこないという印象を持たれてきました。このため、黒人差別と比べてアジア系に対する差別は見えづらく、BLM(Black Lives Matter)運動が世界中で盛り上がる中、自分たちへの差別問題がないがしろにされていると感じるアジア系住民は少なくないかもしれません。

それが、今回のような事件の多発を受けて、ハリウッドのアジア系俳優が抗議コメントを出すなど、社会的に影響力を持つ人々が声を上げ始めています。ハリウッドでアジア系と言えば、2018年に大ヒットした映画『クレイジー・リッチ』が思い起こされます。原題が“Crazy Rich Asians“である同作は、シンガポールの大富豪の御曹司とニューヨークの中国系キャリアウーマンの恋愛を描いたラブコメディーで、主要キャストとスタッフがアジア系で占められたハリウッド映画としては異例の作品ながら、米国だけでも興行収入1億5千万ドルを超えるヒットとなりました。同作の快挙は米国におけるアジア系住民の地位向上を反映したものであったはずですが、コロナ禍は再び人種間の分断を広げてしまったようです。

バイデン新大統領は就任直後の1月26日、アジア系住民へのヘイトクライムや人種差別に厳しい対応を取るよう連邦機関に求める大統領令にサインしました。政策的な取組みは始まったばかりで、差別解消は一朝一夕にはいかないでしょうが、今後ますます「従順なモデル・マイノリティ」からの抗議の声が高まり、政策を後押しすることになると思います。