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コロナ禍と大統領選挙


2020年12月
佐藤丙午


2020年11月3日に、米国の大統領選挙が実施されました。正式には、11月には選挙人選出の直接選挙が各州で実施され、その後12月14日に選出された選挙人による本選挙へと進み、2021年の1月6日に開票・選挙結果の確定、そして1月20日に大統領就任式が実施されます。トランプ大統領は、11月の選挙における不正を訴え、票の再集計を求めており、敗北を認めていません。選挙結果が確定するのは、少し先になりそうです。

民主主義の政治体制において、一番重要なのは選挙結果を受け入れること、つまり敗者が納得して敗北を受け入れることだと言われます。これは、トランプ大統領が今回共和党史上最高得票と獲得したとしても、動かすことができない手続きです。皮肉なことに、これを教えてくれたのは、2000年の大統領選挙で、やはり票の再集計を求め、選挙人選挙の直前まで法廷闘争を戦ったゴア副大統領でした。20年たって、共和党と民主党の立場が入れ代わって選挙結果にチャレンジする事態が起こるとは、想像もしていませんでした。

トランプ大統領が、2020年の選挙の結果を受け入れられないと粘る理由の一つとして、自身の進めた政策に対する自信があるように思います。実際、トランプ政権の国内政策及び外交安全保障政策に大きな失点はなく、政策単体で評価した場合、成功した大統領とすることは可能でしょう。しかし、トランプ大統領は、メキシコとの国境の壁の建設にこだわったこと、これまでの外交安全保障政策上の課題に一定の決断を下し、結果的に米国の国際的評価を下げたこと、そして大統領としての品位を汚す言動を繰り返したこと、など、米国民が受け入れがたい点があったのも事実です。

そして、コロナ問題を軽視したような態度で終始し、事態の悪化を招いたことが、選挙では致命傷になったように思います。一般的に国家が危機に直面するとき、現職の政治家は支持率を高めます。国家の最高指導者は、国民に安心感を与える役割が期待されており、実際多くの国で政府に対する支持は高まっています。その意味で、マスク等の予防策の徹底に消極的であったトランプ大統領は、米国民に安心感を与えることに失敗しています。これは、大統領選挙の時期までにはワクチン製造に成功するとした予想が、「ほぼ」正確であったことを差し引いても、大統領に向けられた不信感を払拭することは困難でした。

この結果、トランプ大統領が無意識のうちに実践していた、米国と国際社会の関係性の調整は、バイデン政権に委ねられることになります。2000年代初頭に「帝国」と形容された米国は、21世紀に入り、国際経済における相対的地位の低下、国際社会の集合的意思決定における主導的地位の喪失などにより、リベラル国際主義と市場民主主義の普遍化を牽引する歴史的役割が果たせなくなっていました。国際社会において、「普通の大国」として立ち回ることを余儀なくされるようになっていたのです。

この状況の中で、トランプ大統領は「米国第一主義」を掲げ、歴史的な調整局面において米国を「引き籠らせ」、国内での力の涵養を目指す政策を進めてきました。これは、米国の「例外主義」を信じる立場からは許しがたい背信と映ったと思います。なぜなら、その過程で国際社会は、米国の存在感に対して敬意を抱かなくなるためです。しかし、冷静に考えると、これは米国の国際的な地位と、国際的な意思決定の状態を見ると、理にかなった政策であったともいえます。

そして、2021年から始まるバイデン政権において、トランプ政権の政策を引き継ぐのか、それとも全く異なるイノベーティブな政策により、再び米国が国際社会で指導的地位を回復する軌道に向かうのか、注目されているのです。たしかに、バイデン政権を第3期オバマ政権と揶揄する人もいます。しかし、2020年の米国社会の大混乱を超えて、米国の政策がどのような方向に向かうのか、国際的な注目が集まっているのです。