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中国軍の能力拡大を相殺する日本の「備え」


2020年11月
鈴木祐二


陸上自衛隊は日本の本格的有事に備える大規模演習実施を検討しています。陸自のほぼ全隊員(約14万人)を動員して機動展開を実施し、今後の検討課題を抽出する予定です。前回の演習は東西冷戦最中の1985年に、旧ソ連の対日侵攻を想定し北海道中心に実施されました。今回は、台湾有事を想定しているようですが、南西諸島防衛に関してはすでに、空自第9航空団新編(那覇、2016)、陸自与那国沿岸監視隊新編(2016)、空自南西航空警戒管制団新編(那覇、2017)、陸自水陸機動団を新編(相浦、2018)、陸自奄美警備隊新編(2019)、陸自宮古警備隊新編(2019)、陸自第7航射群移駐(宮古島、2020)、陸自第302地対艦ミサイル中隊新編(宮古島、2020)、空自警戒航空団新編(浜松、2020)等の部隊を追加配備・新編するなどして、対中防衛のための編制面での「備え」を着々整えつつあリます。

一方、台湾国防部は9月1日付で立法院に提出した非公開の年次報告書で、中国の軍事作戦遂行能力向上に警鐘を鳴らしています。広東省湛江に司令部を置く南海艦隊所属の遠洋航海部隊が年初に「第3列島線」に初めて接近し、第1・第2列島線を越えて遠海作戦を行う能力を対外的に誇示したと指摘しています。同日発表された米国防総省の中国軍事力に関する報告書では、中国は「戦略核の3本柱(TRIAD)」の運搬手段開発に傾注しており、潜水艦を含む中国の艦艇数が約350隻で、米海軍の239隻( 2020年初頭)を上回り「中国は世界最大の海軍を有する」(弾頭数や隻数だけの話との謂?: 括弧内は筆者解釈)との表現に留め、「第3列島線」という語は用いていません。

台湾の報告書にいう「第3列島線」という用語は、米国防総省が公表した報告書では言及されていませんが、一般にアリューシャン列島から南下してハワイ、南太平洋の米領サモアを経てニュージーランドへ至る線と理解されています。中国海軍遠航部隊は、米インド太平洋軍の司令部や基地群を巡航ミサイルで直接攻撃可能なハワイから約1200㎞の海域まで接近したとのことです。さらに中国空軍の轟6(H-6)爆撃機搭載の長距離対艦ミサイル鷹撃(YJ-100)を用いれば、第2列島線上の米軍グアム基地や洋上の空母打撃群を急襲できるので、日米豪軍による中国への「接近阻止・領域拒否」(A 2/AD)という作戦目的を達成できると、警戒しています。

また、もし原子力潜水艦を含む中国海軍艦艇がハワイの北側や東側へ進出すれば、現在開発中の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「巨浪(JL)2」をもって米本土東部への核攻撃も、能力的には可能になリます。ハワイ周辺海域では、中国海軍は2014年と2016年の2回、米海軍主催の環太平洋合同演習(RIMPAC)に参加した経験があリます。今年のリムパックでは日米豪海軍の合同演習を牽制するかのように、南シナ海や渤海湾と黄海を含む台湾周辺海域で軍事演習を実施しています。これらの海域(西太平洋)はいずれも、ハワイ州マウイ島に司令部を置くインド太平洋軍の責任分担地域(AOR)であり、その中で在日米軍と在日米軍基地への日本政府の積極的な支援が最重要な役割を担っています。

「自由で開かれたインド太平洋」構想は、結果的に、この地域での「中国の現状打破」を目指す動きに歯止めを掛けています。その中で特に日本の安全保障面で重要な役割を期待されているのが日・米・豪・印の4ヵ国協力で、軍事面で日本は,米豪印と物品役務相互提供協定(ACSA)を締結し、米国に続いて豪州軍に対する自衛隊の武器使用による防護実施へ向けた調整を開始しました。11月の日米印の海上共同訓練(マラバール)に豪州軍を初めて招待するなど日米同盟を中心に4ヵ国の連携は深まっています。

以上、日本の「備え(Hedge)」を概観して思うのは、憲法を中心とした国内法の整備がまだまだ十全でないという点です。現状打破をめざす中国に対する自衛隊の防衛能力を向上させ、日米同盟を強化し、日米豪印の相互協力を十全なものにするには、自衛隊の能力が宝の持ち腐れとならぬよう、その点に留意し、改善すべきです。