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BRICSの凋落


2020年7月
名越健郎


米ジョンズ・ホプキンス大学が毎日公表する世界各国の新型コロナ感染者数を見ていると、BRICS諸国の急増が目につきます。6月25日現在で、米国に次ぐ2位がブラジル(118万人)、3位がロシア(60万人)、4位がインド(47万人)。南アフリカは11万人、中国は8万人です。

ブラジルでは、飲料水へのアクセスもない大都市の貧困地区で爆発的に感染が広がり、猖獗を極めているようです。実際の感染者数は公式発表の10倍以上とする説もあります。インドも同様で、衛生状態が劣悪な「3密」のスラム街を中心に爆発的に広がっています。

ロシアは富裕層がウイルスを北イタリアから持ち込んだだけに、エリート層の感染者が多く、首相以下閣僚や次官、知事らに感染が広がり、その後南部など全国の貧困層を直撃しました。

中国は感染を封じ込めたとはいえ、そもそも中国当局が初動で素早く武漢を完全封鎖し、情報を世界に発信していれば、1000万人に上るコロナ禍は防げたでしょう。
ブラジルのある医師は、「感染拡大の原因は社会的不公平にある」と指摘しましたが、BRICSが総崩れになった背景に、貧富の格差、衛生状態の不備、弱者の放置など脆弱な社会構造がありそうです。

「BRICs」という言葉は、米投資会社ゴールドマン・サックスが2001年に投資家向けレポートで打ち出し、後に南アフリカが加わって「BRICS」となりました。これに反応したロシアのプーチン大統領は、BRICSを米国の一極支配への対抗軸とすべく、「30億人の市場や巨大な天然資源を抱え、経済、技術の潜在力も高い未来の大国群」と形容しました。

2009年からはプーチン氏の音頭でBRICS首脳会議が毎年開催され、そのたびに共同声明が発表され、潜在力を誇示しました。

しかし、コロナ禍の経済的後遺症は先進国よりも新興国の方が大きく、資本逃避が顕著で、通貨が対米ドルで下落し、インフレ圧力が強まっています。経済封鎖で大量の失業者を出し、貧困層の生活苦が高まって社会不安を招きつつあります。

コロナ危機と並行して、BRICSの二大大国、中国とインドの国境地帯が緊張し、6月には両軍部隊の衝突で、インド兵20人が死亡、100人以上が負傷する事件が起きました。銃は使われなかったそうですが、歴史的な双方の不和が再燃しました。

今年はBRICS首脳会議はなさそうで、コロナ禍はBRICSの結束を弱め、「未来の大国群」の病巣を見せつけました。