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ホルムズ海峡のうねり


2019年9月
鈴木祐二


2019年6月13日は、日本の安倍総理とイラン最高指導者ハメネイ師の会談日でした。この日の朝、ペルシャ湾とアラビア海を結ぶ要衝ホルムズ海峡近くのオマーン湾で、タンカー2隻と米海軍無人偵察機MQ-9リーバーが何者かの攻撃を受けました。

当日の時間経過は以下のとおりです。ノルウェー船籍の石油タンカー「フロント・アルタイル」への攻撃(06:12)、米海軍偵察機攻撃(06:45)、日本の国華産業が運航するパナマ船籍「国華カイレイジ」1回目爆発(07:00)、2回目爆発(10:00)。この間に、イラン革命防衛隊海軍のヘンジャディン級巡視船と複数の高速戦闘艇や高速沿岸戦闘艇がノルウェー船籍タンカー近くで行動しているのを、米軍機が確認・撮影(08:09)。両タンカーは喫水線上に仕掛けられた吸着水雷(リムペットマイン)よる攻撃を受けたようです。同日、そのうちの吸着水雷不発弾一発を回収するイラン革命防衛隊海軍の巡視艇が、米中央軍ヘリコプターによって撮影されています(16:10)。

その後、イランは17日にバグダッド郊外の米軍駐留拠点付近に砲撃を加えました。それを受け、米国は1000人規模の米軍増派を発表。20日にはイラン革命防衛隊が米海軍無人偵察機(BAMS-D)を地対空ミサイルで撃墜しました。この時点で、ホルムズ海峡付近のうねりが高まりかけましたが、白い波頭が立つまでには至りませんでした。

こうした事態に際し、米国は有志連合による同海峡警備構想を提唱し、ロシアはそれに対してペルシャ湾集団安全保障構想を公表し、9月の国連安保理事会への決議案採択を提案しています。イランとロシアは合同軍事演習をホルムズ海峡周辺で年内にも実施する予定です。中国は米国案よりロシアの提案に賛同を示しています。欧州主要国は米国支持の英国を除いて、米ロ両国の提案とも慎重な姿勢です。さて、日本は、どのような姿勢で臨むのでしょうか。

8月7日、初来日した新任のマーク・エスパー米国防長官は防衛相との会談で「日米同盟はインド太平洋の平和と安全の基礎であり、米国のコミットメント(責任ある関与)は盤石だ」と述べ、その一環としての有志連合編成と日本の参加について言及しました。対する岩屋防衛相は、日本関係船舶の安全確保のために、どのような対応が効果的でかつ可能なのかについて①原油の安定供給確保、②同盟国・米国との関係、③イランとの永年(国交樹立90周年)の特別な友好関係等、さまざまな角度から総合的に判断したい旨を米国側に伝達しました。

日本に期待されているのは、米国や他の同盟国では果たし得ないイランとの対話の中継ぎ役を担うことでしょう。米国側にとっても、日本とイランとの特別な友好関係を利用するのは重要です。そう考えると、日本が無条件に有志連合に加わるのは考えものです。

一方で、ホルムズ海峡問題は日本独自の問題でもあります。日本が米国主導の有志連合とは連絡・調整の関係、付かず離れずの関係を維持しつつ、直接参加は見送り、周辺海域に旭日の自衛艦旗を翻した海上自衛隊「水上艦艇の存在」(Show the Flag!)を実現するのも一つの方策となりそうです。

特殊で非現実的な憲法解釈に束縛され、泥縄式に積み上げられた今日までの国内法上の各種論論法を、知恵を絞ってさらに練り上げる必要に迫られますが、その結果、日本の安全保障政策上の選択肢が少しでも広がることに期待します。