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対米関係が生み出したサウジと中国の接近


2019年3月
野村明史


サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマーン皇太子が、2月17日から22日にかけて、パキスタンとインド、中国を歴訪しました。最初の訪問地パキスタンでは、カーン首相の手厚い歓迎を受けて、ムハンマド皇太子は約2兆2000億円規模の経済支援を行うことを約束しました。

次の訪問地インドでは、モディー首相が自らムハンマド皇太子を空港で出迎え、サウジは今後2年間に約12兆円の投資を行う方針を明らかにしました。通常、インドの首相が外国要人を空港で出迎えることはほとんどありません。しかも、ムハンマド皇太子は国家元首ではなくナンバー2の地位ですので、モディー首相の出迎えは異例の歓迎であったと言えるでしょう。

そして最後の訪問地となった中国では、サウジアラムコと中国企業2社の合弁で遼寧省に石油化学コンビナートを建設することを発表し、一帯一路への強い支持を表明しました。また、この合弁会社へは約1兆1000億円の投資が見込まれ、中国最大の合弁会社になると期待されています。

ムハンマド皇太子は、昨年10月に起きたカショギ氏殺害指示の嫌疑をかけられ、サウジの国際的信用は大きく失墜しました。欧米企業はサウジへの投資に消極的になり、米国上院議会では、カショギ氏殺害とイエメン内戦介入の非難決議案が採択されました。さらに今年1月、EUはマネーロンダリングやテロ資金供与への対策が不十分な国のリストにサウジを追加して、サウジと欧米諸国との関係は急激に冷え込んでしまいました。今回のムハンマド皇太子のアジア歴訪には、このような国際的孤立からの脱却を図る狙いがあったと考えられます。

今までサウジは中国との関係や一帯一路への参加には慎重な姿勢を示していました。しかし、今回、中国との関係強化をアピールすることによって、パキスタンやモルディブでは思ったような成果を上げられていない一帯一路に救いの手を差し伸べ、イランなど他の中東諸国へ進出を図ろうとしている中国に影響力を強める狙いがあるのでしょう。そして何よりも、貿易戦争で米国と対立関係にある中国への接近は、サウジへの強硬な姿勢を見せる米政権への大きな警告を表しています。

このように中国との親密関係をアピールしているサウジですが、安全保障や経済面では未だ米国に大きく依存しており、中国へシフトチェンジしたとみるのは時期尚早です。今回の両国の接近はあくまで対米関係が生み出した結果であり、米国との関係に変化が生じれば、両国の接近も一時的なものに留まるかもしれません。