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マルクス生誕200年で「幽霊」が徘徊


2018年11月
名越健郎


丹羽文生氏のコラムによれば、今年5月4日は田中角栄生誕100周年だったそうですが、翌5月5日はカール・マルクス生誕200周年でした。

ユダヤ系ドイツ人のマルクスが1848年、30歳の時に盟友のフリードリヒ・エンゲルスと発表した『共産党宣言』は、史的唯物論の立場から、社会が資本主義、社会主義を経て共産主義に向かうという「歴史の法則」を予告し、階級闘争を呼び掛けたものでした。

しかし、ソ連・東欧型社会主義の破綻もあり、19世紀のマルクス思想は21世紀にはすっかり色褪せてしまいました。「万国の労働者よ、団結せよ」は『共産党宣言』の最も有名なフレーズですが、ソ連崩壊のころのモスクワでは、あの世のマルクスが地上に蘇り、ソ連国民を前に、「万国の労働者よ、私を許してくれ」と叫んだ-というアネクドート(小話)が流れていました。

もっとも、日本の老舗国立大学ではいまだにマルクス経済学が幅を効かせています。「マルクス経済学を専攻した学生が就職すると、組合活動ばかりやって困る」という苦情を企業幹部から聞いたことがありました。

一方で、英国の若手評論家、ユセフ・エルギンギー氏は英紙「インディペンデント」(5月8日)のコラムで、資本主義が冷戦後のグローバル化によって行き着く所まで暴走し、重大な転換点に到達しているとし、「世界は遂にマルクスを受容するかもしれない」と書いていました。

同氏によれば、現在、世界の最高富裕層8人の資産は、世界の人口の約半数に当たる貧困層約35億人の総資産とほぼ同じ。2010年は最富裕層300人、2016年は最富裕層60人の資産と35億人の資産がほぼ同じだったそうで、年々トップ富裕層への富の集中が進み、超格差社会が進行しています。

同氏は、「マルクス主義の評価は社会主義国の失敗によって地に落ちたが、歴史は共産主義が不可避ではないことをまだ証明できていない」と書いています。近年は、ウエブスターのオンライン百科事典で「社会主義」が最も多い検索用語の一つになっており、富の偏在に不満を持つ若者の間で社会主義への関心が高まっているそうです。

「社会主義市場経済」の中国もいまや空前の格差社会ですが、ロシア共産党を支持するロシア人学者はロシア革命100周年の昨年、プーチン大統領周辺の新興財閥への富の偏在を批判し、「ロシアは革命前夜だ」と皮肉っていました。

『共産党宣言』の冒頭に出てくる「共産主義という幽霊」が再び徘徊するかもしれません。