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死文化した法律


2017年9月1日
丹羽文生


日本には一体、何本の法律があるか知っていますか。アメリカでは連邦議会議員のことを「ローメーカー(Lawmaker)」と呼びます。日本でも憲法第41条に「国の唯一の立法機関である」と記されている通り、法律を制定できるのは国会に限られており、それを構成する国会議員は、「法律(ロー)」を「作る(メイク)」ことこそが第1義的任務なのです。しかし、国会議員であっても、法律数を答えられる人は、そうはいないと思います。

国会図書館の「日本法令牽引」データベースに登載されている法律数は最高法規たる憲法を含め、8月1日現在で2,238本です。条約や政令といったものも加えると現行法令は2万7,696本にも上ります。

ただし、役目を果たして死文化してしまったものも数多く存在しています。少し古くなりますが、今から3年前に出された「いわゆる『実効性を喪失』していると考えられる法律は何本あるか」との質問主意書に対し、国は答弁書の中で「法務省の集計」として、2014年2月28日現在で「実効性を喪失した法律の件数は155件である」と回答しています。代表的な法律としては「昭和天皇の大喪の礼の行われる日を休日とする法律」が挙げられるでしょう。

中には帝国議会の頃に設けられた法律もあります。例えば大日本帝国憲法が公布された年の1889年12月にできた全6条足らずの「決闘罪ニ関スル件」という法律です。そこには、決闘すれば2年以上5年以下の重禁錮、20円以上200円以下の罰金を科すといったことが定められています。明治の半ばにできた法律が今でも生きているのです。
用済みとなった法律を精査する大規模な法令整理は、過去に2回実施されました。1回目は1954年5月、「法令整備本部」を設置して、いらなくなったものを洗い出し、400本近い法律を廃止しました。

2回目は28年後の1982年7月で、「行政事務の簡素合理化に伴う関係法律の整理及び適用対象の消滅等による法律の廃止に関する法律」という何とも長ったらしい法律を新たに設けて300本ほどの法律を廃止しています。その中には戦前の名残から「満州」や「樺太」、「台湾」といった名称を冠したものもありました。

ただ、法律を廃止するのは、そう簡単なことではありません。法律を廃止するための法律を新たに設けなければならず、相当な時間とマンパワーが必要なのです。自民党では今から10年ほど前に行財政改革の一環として党内に「法律廃止検討委員会」(仮称)を設置する動きが見られました。国政選挙における「政権公約」にまで明記されたのですが、結局、かけ声倒れに終わっています。

現段階では、法令整理に関する動きは全く見られません。しかし、このまま放っておけば増殖する一方です。法令整理は、行政のスリム化、経費削減にもなります。2回目の法令整理から35年が経過しました。そろそろ3回目の大鉈を振るう時機が来ているのではないでしょうか。