全人代2016
2016年4月1日
富坂 聰
三月に行われた全国人民代表大会(全人代)が閉幕して間もなく、例によって中国の携帯電話には作者不明のブラックジョークが送信されてきましたので、一つ紹介しましょう。
今回の全人代で最も話題となったのは陸昊黒竜江省省長の失言でした。失言の中身は、全国でいま問題になっている炭鉱労働者の給料の遅配についてです。この問題で質問を受けた陸省長は、黒竜江省の傘下で省内に最大の炭鉱を有する国有企業、龍煤集団では、「一カ月の遅配もない」と実態とは違うにもかかわらず断言してしまったことで、遅配に苦しむ龍煤集団の現地労働者たちが抗議に立ち上がり、その様子が動画に投稿されてしまったというものでした。
全人代そのものはつつがなく閉幕を迎えたものの、その裏では高速道路を二十四時間体制で見張り、労働者たちの状況を徹底的に取り締まるという厳戒態勢で臨まなくてはならなくなったのです。
さて、この事態を受けて発せられたジョークは、仕事にあぶれた炭鉱労働者たちが国有の大農場に再雇用され、騒ぎが収まったという設定でした。このことに満足した習近平が農民となった元労働者を訪ねます。
習近平 仕事が見つかって良かったね。
労働者 はい、主席。党に感謝しています。
習近平 では、その感謝をどう表現しますか。
労働者 何でもします。
習近平 もし、土地を半分等に寄付してほしいといったら?
労働者 喜んで寄付します。
習近平 では、車が二台あれば一台寄付する?
労働者 もちろん。
習近平 では、牛が二頭いれば一頭を寄付してもだいじょうぶだね。
労働者 いや、それは絶対ダメです。
習近平 えっ? 土地も車も寄付できるのに、なぜ牛はできないの?
労働者 だって、牛だけは本当に持ってますから……。
このジョークは党と労働者の微妙な関係、党が躍起になる経済対策としての流動性確保の難しさ、そして党の宣伝とその背後の空気感といった要素を強烈に皮肉っているのが特徴です。
実は、今回の全人代を通じて最も伝わってきたのは、国民の間に蔓延する不思議な疲労感とも言うべき空気でした。習近平の政策も危機感も、そして対策もすべてが的確であることは理解できる。理解できるが、何となくつかれてしまっているという空気です。
習近平の中国がスタートしたのは二〇一二年一一月。たった三年半弱でこんなに疲れてしまった中国は、これから六年半も続く習近平指導部の下で、果たしてこの空気に耐えて行けるのでしょうか。ちょっと心配になりました。
富坂 聰
三月に行われた全国人民代表大会(全人代)が閉幕して間もなく、例によって中国の携帯電話には作者不明のブラックジョークが送信されてきましたので、一つ紹介しましょう。
今回の全人代で最も話題となったのは陸昊黒竜江省省長の失言でした。失言の中身は、全国でいま問題になっている炭鉱労働者の給料の遅配についてです。この問題で質問を受けた陸省長は、黒竜江省の傘下で省内に最大の炭鉱を有する国有企業、龍煤集団では、「一カ月の遅配もない」と実態とは違うにもかかわらず断言してしまったことで、遅配に苦しむ龍煤集団の現地労働者たちが抗議に立ち上がり、その様子が動画に投稿されてしまったというものでした。
全人代そのものはつつがなく閉幕を迎えたものの、その裏では高速道路を二十四時間体制で見張り、労働者たちの状況を徹底的に取り締まるという厳戒態勢で臨まなくてはならなくなったのです。
さて、この事態を受けて発せられたジョークは、仕事にあぶれた炭鉱労働者たちが国有の大農場に再雇用され、騒ぎが収まったという設定でした。このことに満足した習近平が農民となった元労働者を訪ねます。
習近平 仕事が見つかって良かったね。
労働者 はい、主席。党に感謝しています。
習近平 では、その感謝をどう表現しますか。
労働者 何でもします。
習近平 もし、土地を半分等に寄付してほしいといったら?
労働者 喜んで寄付します。
習近平 では、車が二台あれば一台寄付する?
労働者 もちろん。
習近平 では、牛が二頭いれば一頭を寄付してもだいじょうぶだね。
労働者 いや、それは絶対ダメです。
習近平 えっ? 土地も車も寄付できるのに、なぜ牛はできないの?
労働者 だって、牛だけは本当に持ってますから……。
このジョークは党と労働者の微妙な関係、党が躍起になる経済対策としての流動性確保の難しさ、そして党の宣伝とその背後の空気感といった要素を強烈に皮肉っているのが特徴です。
実は、今回の全人代を通じて最も伝わってきたのは、国民の間に蔓延する不思議な疲労感とも言うべき空気でした。習近平の政策も危機感も、そして対策もすべてが的確であることは理解できる。理解できるが、何となくつかれてしまっているという空気です。
習近平の中国がスタートしたのは二〇一二年一一月。たった三年半弱でこんなに疲れてしまった中国は、これから六年半も続く習近平指導部の下で、果たしてこの空気に耐えて行けるのでしょうか。ちょっと心配になりました。