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秋田犬はなぜロシアで人気か


2015年7月1日
名越健郎


今年は忠犬ハチ公没後80周年で、東京・渋谷や秋田県大館市などゆかりの地で様々な関連イベントが行われました。東大農学部キャンパスには、ハチ公と飼い主の上野英三郎博士の像が新たに建立されました。

とはいえ、1970年代には国内に25万匹いた秋田犬は今日、1万匹前後まで激減しています。国内で飼われる犬は推定1400万匹とされ、空前のペットブームですが、小型洋犬が大半で、大型犬は敬遠されるようです。飼い主の高齢化もあり、現状では、大型犬唯一の天然記念物である秋田犬が絶滅しかねません。

対照的に、海外ではちょっとした秋田犬ブームで、秋田犬保存会(大館市)の海外支部が近年、ロシア、ウクライナ、イタリアなどに発足し、9カ所に置かれています。毎年、各海外支部で秋田犬らしさを競う品評会が実施され、日本から審査員が招かれています。海外の秋田犬人気は、2009年に公開されたリチャード・ギア主演のハリウッド映画「ハチ-約束の犬」が愛犬家の涙を誘ったことが大きいようです。
松竹映画のリメイクですが、ハリウッド版の方が感動的です。

ロシアの動物市場では秋田犬が一匹15万円前後で売られ、人気上昇中です。「秋田犬は賢く、耐久力があり、主人に忠誠を尽くす」(保存会ロシア支部サイト)ことが魅力のようです。日本以上のペット大国であるロシアでは、郊外に別荘を持つ人が多く、寒さに強い秋田犬が雪の中を疾走する姿は絵になります。

2012年に佐竹秋田県知事が東日本大震災での支援への感謝の印として、プーチン大統領に秋田犬の子犬を贈ったことも、秋田犬人気を高めました。大統領は日本語で「ゆめ」と名付け、猫好きの佐竹知事にシベリア猫をプレゼントし、「ペット外交」としてロシアで大きく報じられました。「忠誠心」はプーチン政治のキーワードでもあります。

中央アジア・キルギスの次期大統領を目指す野党共和党のババエフ党首も秋田犬の大ファンで、二匹飼っています。秋田犬を飼う二人目の国家元首になるかもしれません。

日本の秋田犬ブリーダーによれば、中東や中南米、中国などからも引き合いが増え、中国の四カ所とアルゼンチンにも保存会支部ができるそうです。海外の秋田犬人気は、日本のソフトブランド・ブームの一環と思われます。日本固有の文化や伝統が、国内で敬遠されても、海外で受け入れられることが時々あります。