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健さんびっくり、「北方領土番外地」


2015年2月15日
名越健郎


3年前に北方領土のビザなし渡航で国後、択捉両島を訪れた際、島のロシア人記者に接触し、両島で発行されている地元紙を添付ファイルのメールで有料で送ってもらっています。国後で発行されている地元紙は「ナ・ルベジェー」(国境で、発行部数715部)、択捉紙は「クラスヌイ・マヤーク」(赤い灯台、同562部)といい、いずれも週二回発行のタブロイド版4ページ。地元のニュースが中心のコミュニティーペーパーですが、発刊はソ連軍が島を占領して2年後の1947年で、それなりに歴史があります。

ロシア本土の大方の新聞と同様、政権べったりであまり面白くはありませんが、時々載る社会ネタは断片的ながら、島の世相を反映して興味をそそられます。島では、殺人事件もしばしば起きており、たとえば、2012年11月択捉島のロシア軍基地で兵士が同僚をスコップで殴り殺す事件がありました。徴兵で配属された兵士がいじめに反発し、先輩兵士を殺し、逮捕されたそうです。

同年9月には、択捉島でサケの密猟を監視していた警備員が猟銃で撃たれて負傷し、3人の容疑者が逮捕されたそうです。13年6月には、択捉の最高指導者、アベニャン地区長が公金横領のため、解任されています。実際に存在しない建物の取り壊しに入札を公示し、日本円で3000万円を着服したとか。

択捉島では、麻薬の吸引者が増加していることも社会問題になっています。漁期に本土から来る季節労働者が持ち込むようです。島にはエンタテイメントがないだけに、麻薬に手を出すのかもしれません。

国後島でも13年、本土の請負業者が飲料水貯蔵施設を実際には建設せず、2100万円を横領していたことが発覚しました。14年2月には、国後沖合に拘留された外国船舶の検査に向かっていた国境警備隊のゴムボートが高波で転覆、隊員5人が死亡、5人が行方不明という事故も起きています。島は強風が吹き、気候が過酷だけに、特に冬場の事故や火災が多いようです。

殺人威嚇、酔っぱらいの喧嘩、交通違反、住居不法侵入、強盗といった犯罪も報道されています。両紙ともに、「島の犯罪発生率はロシア平均より低い」と書いていますが、ロシア自体が凶悪犯罪の多い国で、殺人事件は日本の約25倍です。

往年の高倉健顔負けの暴力と任侠の世界が、北方領土にありそうです。