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原油価格が左右する「新冷戦」の帰趨


2014年11月20日
名越健郎


原油価格が下がり続けており、1バレル=70ドル台と4年ぶりの安値圏にあります。国際エネルギー機関(IEA)は最近、中国経済の減速、米国産シェールオイルの増産などで来年前半にかけて、原油価格はさらに下落すると予測しています。エネルギーを輸入に依存する日本や欧州連合(EU)にとっては朗報ですが、ロシアやイラン、ベネズエラなど資源依存の産油国には痛烈な打撃となっています。ロシアは輸出の7割、政府歳入の半分が石油・ガスというエネルギー依存経済体制で、原油価格下落とともに、通貨安、インフレ、資金逃避が進んでいます。ロシアでは、原油価格が下落するたびに、陰謀論がささやかれますが、今回も、「米国とサウジアラビアが仕掛けた秘密工作」(コメルサント紙)とする見方が出ています。プーチン大統領自身、「原油価格には常に政治的要素がある。価格が変動すると、してやったりと思う勢力がいる」と特定は避けながらも、米国が背後にいることを示唆しました。

これには理由があり、1980年代中盤以降の原油価格下落は米国が仕掛けた経緯があります。レーガン政権はアフガニスタンに侵攻した旧ソ連に打撃を与えるため、サウジと組んで石油価格下落を画策。サウジが大増産し、1バレル=30ドル台だった石油価格は10ドル台に低迷し、「ソ連崩壊の真の理由」(プラウダ紙)といわれています。1998年には原油価格が一時同9ドル台の安値を付け、ロシアはその年、デフォルト(債務不履行)に陥りました。当時のエリツィン大統領は「親友」のクリントン大統領に価格引き上げを懇願した経緯があります。

2000年代に入って、原油価格は中国など新興国の需要増や地政学リスクで急上昇しましたが、その最大の恩恵を受けたのがプーチン大統領でした。エネルギー企業の国家統制を強め、オイルマネーを国庫に還流させてバラマキ政策や膨張政策を進め、遂にウクライナに介入した形です。

オバマ大統領は今年9月の国連演説で、「人類が直面する3大脅威」として、「エボラ出血熱、イスラム国、ロシアの欧州侵略」を挙げましたが、

原油価格引き下げで、原油売却を活動資金とするイスラム国とロシアに打撃を与えようとする思惑が透けてみえます。80年代と現在では、巨額の投機マネーの存在など状況は異なりますが、米国がロシアを経済苦境に陥らせ、「新冷戦」に勝利しようとする思惑は変わらないようで、原油価格の行方には目が離せません。