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連合艦隊の幻影


2014年11月1日
荒木和博


10月末、さんざん批判を浴びながら日本政府の代表団が平壌を訪問しました。結果はやはりさんざんだったようですが、おそらく行ったメンバーも、政府首脳もそうは認識していないでしょう。「調査委員会」のトップが出てきたということで面子が立ったとして胸をなで下ろしているのかも知れません。

国民の中にも「安倍政権だから拉致問題で進展があるのでは」という意識があるのですが、これまで見てきた限りではパフォーマンスはともかく現実にはほとんど前に進んでいません。そもそも、拉致問題は安全保障問題であって外交問題ではないという本質的なことから目を逸らしているように思います。誰が出てこようと、何とリップサービスをしようと、向こうが加害者でこちらが被害者であることに変わりはありません。その本質を忘れて交渉をすることは危険です。

この流れは、戦略的に無意味とも言えるミッドウェー海戦で大敗した後、その大敗を陸軍にも政府にも天皇にも隠した海軍とダブって見えます。国民は連合艦隊が健在であると思い続け、国は亡びていくというような。付け加えれば最後にソ連に和平の仲介を依頼するということまでやってしまったあの戦争指導をしたのは当時日本で一番頭の良い人たちでした。

朝鮮戦争ですら南から仕掛けたと言っている北朝鮮が拉致を認めたのはブッシュ政権の米国が最も強硬で、なおかつ中朝関係が悪化していたからでした。20年前、北朝鮮核危機で米国が戦争を覚悟したとき、金日成は金正日を押しのけてカーター元大統領と会談し戦争を回避しました。

おそらくそれが、米国が北朝鮮核問題で戦争できた最後のときだったと思います。以後20年間、米国もまた北朝鮮に騙され続けてきました。北朝鮮との交渉は力を背景にやる以外にないということをそろそろ学んでも良いころではないでしょうか。

ところで今回の北朝鮮側の対応で、意外だったのは北朝鮮が日本の世論をかなり気にしていることでした。会談の冒頭で委員長である徐大河が「皆さんの訪朝について、日本でいろいろと食い違った主張が提起されていると承知している」「政府間の合意を履行しようとする日本政府の意志の表れとして正しい選択だ」と言ったのは、日本の世論が厳しく、交渉が打ち切られることを恐れたからでしょう。これが分かったことが今回の代表団の最大の収穫だったように思います。(了)