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北朝鮮を訪問して


2014年9月17日
武貞秀士


8月末、北朝鮮で開催された「国際プロレスフェスティバル・イン平壌」の観戦ツアーに参加しました。初めて行く平壌は、驚きの連続でした。地下鉄は5つの駅を移動しましたが、通勤客と日本からの50名余りのツアー仲間が同じ車両です。2年前は地下鉄での移動は1、2駅のみで平壌市民と一緒に乗ることはなかったそうです。仲間がお婆さんに席を譲ろうとすると、お婆さんが丁寧に辞退したので、私が「そうおっしゃらずに」と肩をポンと叩くと、お婆さんは「ありがとう」と言って座りました。小さな「日朝交流」でした。

平壌から板門店、開城を経由して平壌に戻るツアーでは、往復5時間、トウモロコシ、稲、じゃがいも畑の中を走りました。河川の水は不足していますが、作物は立ち枯れしているわけではありません。稲の作柄はやや不作の状態だとガイドは説明しました。高速道路の休憩所には、みやげ物売り場が開設されています。中朝関係悪化報道が世界で盛んですが、北朝鮮みやげの定番の切手帳は、なぜか「中朝友好記念」のものだけが並んでいます。「中国が原油輸出停止してガソリン価格が高騰」という話がありますが、この1年、ガソリン価格は上昇していないそうです。

ホテル、板門店、人民学習堂など、どこに行っても中国人観光客が目立ちますが、日本人観光客が増えてほしいとガイドは言います。久しぶりの日本からのツアー客を迎えて、北朝鮮側は力がはいっていました。モランボン楽団の練習の声を聞きながら、平壌市街を360度、見渡すことができる場所で写真をとり続けた日本からのツアー客は、4日間の観光を満喫して帰国の途につきました。

プロレス大会の休憩時間にアントニオ猪木・共同実行委員長から貴賓室に呼ばれました。このイベントの北朝鮮側代表である張雄(チャン・ウン)・共同実行委員長らが懇談をしているところでした。張雄委員は北朝鮮IOC委員でもあり、2020年東京五輪実現に向けて尽力した人物です。「武貞さんの朝鮮語はソウルの訛りがないですね」と張委員。その次の言葉に驚きました。「武貞さん。共和国を支持する文章を書いていただく必要はありません。ただ客観的に書いていただければよいのです」。未来指向の日朝関係への期待を静かに語る張委員の目は真剣でした。貴賓室での北朝鮮幹部との懇談は20分ほど続きました。

経済、対外関係、観光事業の現場など、いま北朝鮮は急速に変化しつつあります。北東アジアで不足しているのは、変化しつつあり改革を実行しつつある北朝鮮とどう関わるかという姿勢ではないでしょうか。拉致問題協議が進行しているときに、ミサイル発射は穏やかではないという批判があります。北朝鮮は2013年3月に核兵器と経済再建を同時に追求するという決定を下しましたが、その北朝鮮との協議を開始して、拉致問題を解決する方針を定めたのが日本でした。日朝間には拉致問題、経済交流、国交正常化など課題が山積しています。「木を見て森を見ず」という姿勢に戻っては、「木」も「森」も枯らしてしまうことにならないでしょうか。