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地政学は復活するのか


2014年8月20日
佐藤丙午


2014年のウクライナ情勢を受け、国際社会では地政学(Geopolitics)は復活したのかどうか、という議論が出されています。

Foreign Affairs誌の2014年5/6月号では、ミード(Walter Russell Mead)とアイケンベリー(G. John Ikenberry)が、ロシアのウクライナ併合、中国の攻撃的な海洋進出、イランとシリアやヒズボラとの関係強化などが、リベラルな民主主義に基づく国際秩序対する挑戦なのかどうかについて議論をしています。ミードは冷戦では打ち砕かれなかった各国のハードパワーと、その地理が結び付く地政学の復活を指摘するのに対し、アイケンベリーはリベラル民主主義秩序の強靭さを主張します。アイケンベリーはロシア、中国、そしてイランは、秩序の妨害者以上の存在にはなれないとしています。

ただ、ロシアと西側諸国との関係が変化した原因を地政学の復活と見なすかどうかとは別に、大陸国の周縁で発生している政治的緊張関係が、過去の懸念を呼び覚ます効果あることは否定できないでしょう。

日本は、その近傍にロシアと中国の大陸国を持ち、その間に朝鮮半島と海洋という二つの緩衝帯を持っています。地政学の解釈の一つでは、大陸国はハートランド(ユーラシア大陸中心部)からリムランド(ハートランドの外縁部の海洋部)に影響を拡大するため、リムランドをハートランドに支配させないことが、米国の戦略であるべきとなります。

リムランド論を基本とする地政学では、ハートランドがリムランドに到達しないよう抑制することが重要でした。ロシアと中国はユーラシア大陸の東部で海洋に面しており、その勢力伸長の大部分は直接海洋部に向かうことになります。このため、地政学における大陸国と海洋国の対立関係を参考に、今日のアジア太平洋の戦略環境を考えると、海洋国は、海洋部におけるロシアと中国の行動をチェックし、その消耗を促す戦略が必要となります。A2ADに対するAir Sea Battle構想は、このロジックの下で成立しているように見えます。このように考えると、今日のアジア太平洋では地政学が復活しているように見えます。

ただ、「セキュリティ・ダイアモンド」構想や「平和と繁栄の弧」など、これまでも地政学の復活を思わせる構想はありました。とすれば、今日地政学の復活、と見える現象は、これまでも続けられてきた、地理を絡めた戦略的議論の一つ、とも解釈できます。知られている限り、日本は大和政権以来、地政学という言葉もない中で、大陸の情勢の変化に敏感に反応してきました。今日の状況が、その戦略の質的変化につながるのか、それとも「古いダンスを踊る」ことになるのか、注意深く見てゆく必要があります。