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政治ショーのクライマックスへの道


2026年1月
梅田 皓士
2026年1月13日、韓国の裁判所において、捜査を担当した特別検察官が尹錫悦前大統領に死刑が求刑しました。これは、一昨年12月、尹錫悦大統領(当時)宣布した非常戒厳令をめぐる裁判での求刑です。現状では、求刑段階であり、判決ではないことに留意しなければなりませんが、前職の大統領に死刑の求刑はインパクトを与えました。非常戒厳令をめぐる問題は、過去、本コラムで筆者の立場を示しているため、改めてこの問題について論じることはしません。また、この問題について、尹錫悦の大統領罷免以降、日本では大きく取り上げられることは多くありませんでしたが、韓国では、一種の政治ショートとして取り上げられてきました。その意味において、今回の死刑の求刑は、検察にとっては、判決という政治ショートのクライマックスへ向けた最後の見せ場といったところなのかも知れません。
 韓国の大統領をめぐっては、退任後、殺されるか、自殺するか、捕まるかと言われています。しかし、厳密には、亡命するか、クーデターで下野するか、暗殺されるか、本人が逮捕されるか、親族が逮捕されるか、自殺するかです。具体的には、李承晩は亡命、張勉はクーデターで下野、朴正煕は暗殺、全斗煥、盧泰愚、李明博、朴槿恵は本人が逮捕、金泳三、金大中は親族が逮捕、盧武鉉は自殺です。なお、文在寅は現状では無事ですが、昨年4月に収賄罪で在宅起訴されています。
 この退任後の大統領をめぐる問題について、筆者も頻繁に質問を受けますが、その時の筆者は、「自らの政治勢力を守るため」という面白くもない回答をしています。近年、韓国政治の分断が指摘されるようになっていて、特に保守と革新の対立について取り上げられていますが、韓国政治の激しい対立は過去から存在しています。そのため、権力側は敵対する政治勢力に対して、あらゆる権限を用いて圧力をかけることをします。分かりやすいとことでは、金泳三が当選した大統領選挙に立候補し、対立候補となった現代財閥の鄭周永に対しては、金泳三の大統領就任後、現代の系列企業に税務調査などが行われました。これは、金泳三から鄭周永への報復との見方が強くあります。この例は、政治家対企業人という珍しい例ではありますが、政治勢力対政治勢力でも、現職の大統領が権力機関を用いて、対立する政治勢力へ圧力をかけることは当たり前のように行います。
 韓国では、大統領制の下、政権交代が頻繁に生じる上に国会議員選挙も小選挙区比例代表制並立制ではありますが、議席の多くが小選挙区に配分されているために、第一党が頻繁に交代するため、いつ自身が権力を失うか分からないとの恐怖心から政敵への政治的な圧迫を強めると言えます。反面、権力を奪われた場合、その矛先が自らへ向かうことも理解していることから、政敵への攻勢はより強くなり、結果として、退任後の大統領への捜査などにもつながります。
また、韓国の大統領は周知の通り、強力な権限を有しています。その権限の中には人事もあります。この人事は、政府人事だけではなく、政府傘下の公社のトップの人事なども含まれます。韓国では、日本と比べて政治任用が多く、公社のトップも政治任用の範囲です。そのため、大統領選挙のキャンプは猟官運動の場であり、勝利した陣営は、自陣営に入った人々に一定程度、ポストを分配する必要があります。このポストの分配も一種の利権と化しており不正が起きやすいことの一部と言えます。
 なお、この退任後の大統領をめぐる問題について、筆者も旧知の韓国人の政治学者と議論したことがありますが、その際、相手側は、この現象を民主的と評価していました。要するに、韓国で大統領経験者といえども、不正等があったら法の下に裁かれるため、一般の国民と同じに扱われると言う意味で、これを民主的としました。なるほどと思う反面、そもそも、歴代大統領のほとんどが何らかの問題を起こしていることを問題視しないことへの疑問も生じましたが、その場では、あえて言及はしませんでした。
 話は戻りますが、全斗煥、盧泰愚、李明博、朴槿恵と退任後、本人が訴追され、刑が確定した際も、全員、恩赦されていて、死刑はもとより、懲役刑も刑期を全うすることなく出獄しています。仮に、今後、尹錫悦が大法院(日本の最高裁判所に相当)で何らかの実刑判決を受けた、刑が確定したとしても、どこかの段階で恩赦の対象となることでしょう。その意味でも、今回の裁判は一種の政治ショーの場でもあります。