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今頃「統一しない」とか言われても…


2024年4月
荒木 和博
 韓国の国会議員選挙はほぼ事前の予想通りの結果が出ました。状況的には選挙前とあまり変わらないので対北政策も少なくとも次の政権まで大きくは変わらないでしょう。今の政権では北朝鮮にとってプラスにはならない、しかし3年後の大統領選挙で親北朝鮮の野党側候補が勝っても、それはそれで北朝鮮にとって大変なのです。
 昨年末あたりから金正恩朝鮮労働党総書記が「大韓民国」という言葉を使ったり「統一はしない」とか言っています。何だかんだと半世紀近く朝鮮半島に関心を持ってきた者としては文字通り「わが耳を疑う」内容です。例えば2月9日付朝鮮労働党機関紙「労働新聞」に掲載された「建軍節にあたって国防省を祝賀訪問した際に行った演説」(2月8日)では次のように言っています。
 先頃わが党と政府がわが民族の分断史と対決史を総括し、 韓国傀儡種族を、我々の前途で最も危うい第一の敵対国家、不変の主敵と規定し、有事の際にその領土を占領、平定することを国是として決定した事は、わが国家の永遠の安全と将来の平和と安定のための至極当然の措置だ」
 「こうしてわれわれは同族と言う修辞的表現のためにやむなく、共和国政権の崩壊を企み、吸収統一を夢見る韓国傀儡らとの形式上の対話や協力の類に尽力しなければならなかった非現実的な桎梏を主導的にふるい落とし、明々白々な敵対国と規定したと…」
 北朝鮮のこれまでの国是はざっくり言えば「南朝鮮(韓国)は米帝の植民地であり、人民は抑圧されて苦しんでいる、したがって米帝を追い出し、傀儡政権を打倒して朝鮮半島を統一する」というものでした。それにしたがって対南工作も外交も、拉致を含めた対日工作も行われてきたのです。
 しかし現実には北朝鮮は韓国の背中も見えないところにまで引き離され、南との統一どころか北の政権中枢の分裂すら起きかねない状況です。「有事の際にその領土を占領、平定する」とか言ってもミサイルの乱射で一般部隊には武器弾薬どころか食料すら事欠く有様。戦争などできるはずはありません。
 金正恩のこの発言は逆に、放っておけば北朝鮮が韓国に吸収統一され、そうなれば自分たちが人民からどのような報復を受けるか分からないという恐怖感によるものでしょう。会議で金正恩が演説すれば、聞いている方は真面目にメモをとるふりをしていますが、心の中では「早く終わってくれないかな。家で韓流ドラマ観たいのに」と思っているはずです。 実は金正恩もその状況は分かっています(ひょっとしたら本人も帰って観たいのかも)。だからこそこれまでの国是である「統一」を否定してしまったのです。
 しかし、「統一」という大義名分で様々な無理を重ねてきたこの国でその看板を下ろすということはある意味自殺行為です。魚から骨だけ抜く、あるいはカニやエビの殻を剥がしてしまうことにもなりかねません。朝鮮総聯の内部も混乱しているようですが、本国はそれ以上でしょう。拉致問題にしても日本人妻問題にしても日本が介入するチャンスなのではないかと思う次第です。