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処理水の対立


2023年9月
富坂 聡
 国慶節の連休で観光地が賑わう中国。日本メディアも「日本―中国路線が満席」と騒ぎました。本来なら喜ばしい報道ですが中国メディアは反発しました。「処理水問題など関係なく観光客が殺到」と、日本側が中国政府の思惑の「不発」を匂わせたからです。
 ただ中国人は侵略国にも平気で留学する合理的思考の持ち主で処理水に不満でも「観光は別」と考える人々です。つまり「来る」ことは処理水の「肯定」ではないのです。
実はメディアのこうした理解不足は日中関係悪化の大きな要因です。処理水問題をめぐる両国の応酬にはその特徴が顕著です。
 日本側は、「国際原子力機関(IAEA)が国際基準と認める検査で、中国の原発が海に流すトリチウム濃度の5分の1に薄めた処理水にも中国は強硬に反対し、海産物の輸入を止めた『科学音痴』だ」と批判し、いまや多くの日本人が被害者意識さえ抱いています。
 対する中国側の主張は、「原発冷却水はあくまで密閉された炉心を冷やす水で、それと炉心が溶融し燃料デブリに直接触れた汚染水では危険度は違う。日本はトリチウムだけで説明するが、問題は60以上の核種。それを本当に取り除けるのか第三国で構成するチームで検証すべき。IAEAが認めたのは検査の基準であり、海洋放出は推奨しない。そもそも事故を起こし、データ改ざんの問題も指摘されてきた東京電力が自ら検査するのは筋が通らない」というものです。
これは科学音痴と一蹴できる話でしょうか。
 ネットには、「安全ならなぜタンクに貯めてきたのか」、「十年間放置し、そのツケを海に支払わせるな」という批判も多出しています。
 さらに日本で寡聞なのがロンドン条約/ロンドン議定書会議をめぐる議論です。かつてロシア海軍が核廃棄物を日本海などに投棄していたのを止めるために定められた条約で、当時のロシアも「保管場所が不足し緊急性がある、放射性廃棄物は危険ではない」と主張していました。
福島の処理水はロンドン条約に当たらないと日本は主張していますが、それはロシアの核廃棄物とALPSで処理した安全な水は違うという意味でしょう。中国側は「そんなに安全なら、なぜ工業用水として使わないのか」との疑問を日本にぶつけています。飲んでみろという極端な意見もネットにはありました。
 いずれにせよこうした中国側の主張を「初めて聞いた」日本人も少なくないはずです。これこそがメディアの怠慢なのです。
 中国が日本の水産物の輸入を止め、日本の一部の閣僚が「想定外」と発言したことにも通じる問題です。のちに「想定内」と修正されましたが本当は想定外でしょう。想定内ならば想定通りの反応をすれば、ダメージはコントロールできたはずですから。
つまり反応を予想する基礎となる中国の情報が不足し、現状がとらえられていないのです。これはメディアだけでなく現地大使館も含めた日本の機能不全と言わざるを得ません。