グローバルナビゲーションへ

本文へ

フッターへ



サイトマップ

検索

TOP >  コラム >  北京アラート

北京アラート


2017年9月15日
富坂 聡


怯えたり、慌てたりしないでください。土曜日に防空警報の訓練を行います。もし三種類のアラートを耳にしても、怖がらないように――。

上海出張中の9月11日、私のスマートフォンが突然、物騒なお知らせメールを受信しました。発信者は『鳳凰新聞(フェニックスニュース)』で、信頼できる情報源です。

私は、すぐに北京の友人に電話をかけました。中国の首都でコンサルタント業を営むその友人は、「こんなことは滅多にあることじゃない。さすがにみな緊張している」と驚いていました。

そりゃ、そうでしょう。防空警報が出される――たとえ訓練でも――など、若者には記憶が無く、中年以上の人々には文化大革命期以来の体験です。

中国がこの時期、警報を鳴らす目的は一つだけです。北朝鮮を意識した行動であり、金正恩政権からの予測不可能なプレッシャーにさらされ、ある種の緊張状態に入ったサインです。すなわち、中国から見た北朝鮮が、もはや未知の段階に突入したということです。
どうやら朝鮮半島の「危機」は、新たなフェーズを迎えたようです。

従来、朝鮮半島の危機といえば一義的にアメリカと北朝鮮の武力衝突を意味しました。しかし、ここに来て中国と北朝鮮の間で何らかの深刻な問題が発生する可能性が指摘されるのです。

国連の制裁など、北朝鮮の核開発問題では中国の出方が世界の注目を集めてきました。一方、北朝鮮は中国が問題解決のキャスティングボードを握るような状況を愉快に思っていませんでした。

その不満がいま、アメリカにも増して中国を敵視するまでに高まったようなのです。少なくとも中国は、独自で喫緊のシグナルを発しなければならないほど切迫した事態を意識したはずです。

中国がなぜ、そんな危機感を抱くのでしょう。それは中国にはもう金正恩政権の意図がまったく読めないからです。北朝鮮が中国に向ける、「そこまでアメリカにすり寄るのか」という怒りが、予測不可能な反応にエスカレートすることを懸念しているとすれば事態は深刻です。

中国は北朝鮮に国際社会との協調を促す目的でアメリカに寄り添い制裁を強めてきていました。そして金正男殺害後には、中国の太い対北朝鮮窓口であった党中央対外連絡部(中連部)のルートも閉じました。いま、こうしたことがボディブローのように2国間に作用しているのです。互いの意図を誤解したままブレーキが効かなくなる状況は、決して非現実的なものではないのです。