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王家の慣例を覆したサウジ国王


2017年7月1日
野村明史


6月21日、サウジアラビアのサルマーン国王がムハンマド・ビン・ナーイフ皇太子の全職務を解き、新たに息子のムハンマド・ビン・サルマーン副皇太子を皇太子へ昇格させました。あまりにも突然の交代とそのような予兆もなかったことから、当初はフェイクニュースではないかと疑われるほどでした。

これで、サルマーン国王在位中に皇太子が2度も交代となりました。前回は、2015年、ムクリン元皇太子(サルマーン国王の異母弟)が、ナーイフ元皇太子(サルマーン国王同母兄、国王即位前に死去)の息子でサルマーン国王にとって甥にあたるムハンマド・ビン・ナーイフに皇太子位を譲るという形での交代でした。しかし、今回のムハンマド・ビン・ナーイフ皇太子の更迭は、特段の理由のない突然の解任劇であったため、自身の息子に王位を継承させるためではないかという憶測が流れました。そのためか、内務大臣を筆頭にその他のポストも初代国王から数えて第4世代を中心とする若き王族へと人事の入れ替えが続き、政権の若返りを強く印象付けました。

しかし、今回の人事刷新で注目すべきことは単なる自身の息子への王位継承準備や政権の若返りだけではありません。サルマーン国王は長年のサウード家の慣習を大きく覆したのです。これまで、王位は初代国王の息子である第2世代が年齢順に継承してきました。時の流れとともに、第2世代の高齢化が進み、アブドッラー前国王(サルマーン国王異母兄)の在位中には2度も皇太子が死去しました。そのような背景から、サルマーン国王が2015年に即位した時、初めて第3世代から内務大臣を務めるムハンマド・ビン・ナーイフが副皇太子に選出されました。その後、前述のようにムクリンから皇太子位を譲られ、これまでの彼の実績と年齢も57歳ということから妥当な後継者とみなされていました。しかし、今回の更迭でさらに若い31歳のムハンマド・ビン・サルマーンが第1王位継承者となったことは、これまで「年齢」を重視していたサウード家の慣習を大きく覆すこととなりました。

この力任せともいえる継承と王家の慣習の打破が、これから保守的なサウジにどのような影響を与えていくのでしょうか。

2006年に設立された次期国王を選定する忠誠委員会において、34人中31人が今回の交代を支持したと発表されました。全会一致でなかったので、政権の不安定さを危惧する声も聞こえましたが、このような一定の反対派の容認と公表は独裁政権のイメージが強いサウジアラビアにとって、新たな門出を演出する良い材料ともなりうるかもしれません。

今後も新しいサウジの出発に注目が集まることでしょう。