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インドネシアの変貌


2015年10月1日
吉野文雄


夏休みに学生を引率して2週間ジャカルタに滞在しました。インドネシア訪問は1982年以来おそらく50回をこえますし、今年も1月に1度訪問しました。今回は、改めてインドネシアのこれまでの経済成長の成果と、今後経済大国に変貌する兆しを如実に感じるとなりました。

郵便局にもっとも驚きました。私は、バックパッカーとして東南アジアに足を踏み入れましたし、今も気持の上ではバックパックを担いでいますので、郵便局で局留めの郵便を受け取ったりするのが好きなのです。

今回足を運んだのはジャカルタ・ティムール(東ジャカルタ)の集配局です。なんと窓口の前に行列ができていたのです。行列をつくらせるために、日本でも使われているパーテーションポールにロープが張られています。それに沿って、郵便物や振込用紙を手にして、おとなしく並んでいるのです。

このような光景をインドネシアで見たのは初めてです。これまでは、封書や用紙をわれ先に職員に受け取ってもらおうと、人々が手を伸ばして窓口に殺到していました。混沌としたインドネシアの社会にとうとう秩序が生まれたかと少し感銘を受けました。

私もおとなしく並んだのですが、行列になじまない人もいるんですね。身なりのよいご婦人が一人で入ってきて、行列を見てぎょっとしていました。彼女は並んでいる人々を一瞥した後、迷わず窓口に歩を進め、手に持った書類を差し出しました。しかし、警備員がそれをとがめ、行列の最後尾に着くように指示し、事なきを得ました。

それでも、彼女の苛立ちは収まらないようで、ほんとうに身をよじるようにして、焦燥感をあらわにしていました。自分はこんな下々の人間と一緒に行列に並ぶような身分ではないのだ、本来はこんな書類は家事手伝いの者に持たせるのだ、という彼女の気持ちがはっきりと顔に表れていました。

経済発展というのはこのようなものなのだなと納得した次第です。家の主人から振り込みを命じられた家事手伝いの者には、時間価値はありません。郵便局で30分かかろうが、1時間かかろうが、使命を果たせばそれでいいのです。そこで、窓口に手を伸ばして自分の差し出した書類を職員が受け取ってくれるまで気長に待つわけです。そこには、職員がどの書類から処理するかという不確実性はありますが、機会は均等です。

行列もまた機会は均等ですが、不確実性は大いに減じられます。私の並んだ行列でも、時計を見ながら電話をしている人がいました。あと何分くらいで用事が終わりそうだと言っているのでしょう。

経済が発展し、所得が増えると、人々は時間の価値を認識し、不確実性を減らそうとするのです。さらに、市場にいおいては身分や資産に左右されない公平性が実現するわけです。このようなインドネシアの変貌に深い感銘を受けました。