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核不拡散条約(NPT)への期待


2022年8月
佐藤 丙午
 2022年8月1日から26日の予定で、NPT運用検討会議が米国のニューヨークで開催されます。

 今回の運用検討会議は、2020年に予定されていた会議がコロナ禍で延期され、2年遅れで開催されるものです。運用検討会議は5年ごとに開催されることが決まっており、核軍縮、核不拡散、原子力の平和利用の三分野(三本柱という言葉が使用されます)における国際社会における取り組みの進捗状況を確認し、今後の方向性を議論するものです。

 2022年には、核兵器禁止条約(TPNW)の締約国会議が6月にウィーンで開催されました。核廃絶という意味では、TPNWの理念は素晴らしく、その道筋も明確に規定されています。しかし、国際安全保障における核兵器の役割を考えるとき、核廃絶がすぐに実現する可能性は低く、国際社会はさまざまな政治的要請のバランスをとりながら、核兵器がもたらすリスクの低減を図っていく必要があります。

 国際安全保障に関わる国際環境を概観すると、核兵器国による核兵器の恫喝の事例や、核兵器の増強など、核軍縮の流れに逆行するような出来事が多く見られます。拡大核抑止の役割を重視する国からも、各国の安全保障政策に果たす核兵器の役割を再評価する動きも顕著です。

さらに、AUKUSの元で、米国などが豪州に対して原子力潜水艦を輸出する事案が浮上し、加えて、気候変動問題や国際的なエネルギー危機に対応するため、原子力発電の役割が再評価されています。つまり、NPTが規定する三本柱のうち、今回の運用検討会議では、核軍縮に関する展望は明確ではなく、核不拡散や平和利用に関する争点が各国の関心事となっています。これら諸課題が、運用検討会議においてどのように議論されるのか、注目されているのです。

2022年の運用検討会議では、全体を包括する合意文書が採択される見込みは低いとされています。核問題に関わる各国の利害が錯綜した状況にあり、ウクライナ問題におけるロシアとNATOや日本との対立は深いものがあります。しかし、NPTが成果を上げることができないということは、核兵器国が参加する軍備管理軍縮の枠組みが、国際安全保障において役割を果たすことができないということ意味します。

したがって、運用検討会議参加国は、可能な限り、少しでも利益の一致点を見出し、部分的でも合意を達成してほしいと思います。7月最終週に開催された特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)のLAWSの政府専門家会議では議論が紛糾し、期間内に最終文書に合意することはできませんでした。多国間主義が音を立てて崩壊しているような状況の中で、NPTでは各国が妥協の精神で合意を達成してほしいと願います。