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「クビ切り」なのになぜ万歳?


2021年9月
丹羽文生
永田町に「解散風」が吹き始めました。今の衆議院議員は10月21日に任期満了を迎えます。支持率低迷と新型コロナウイルスの感染拡大により菅義偉首相は今、解散のタイミングを失いつつあります。ややもすれば戦後2例目となる「任期満了選挙」になるかもしれません。

憲法上、衆議院解散に関する条文としては第7条と第69条があります。このうち第69条には「内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない」と記されていますが、衆議院解散は全て第7条の「天皇の国事行為」として解散詔書を以て行われることになっています。

解散の手続きとしては、最初に内閣総理大臣が閣議を開き、全ての国務大臣から解散の同意を得て、内閣総務官が解散詔書の原案を皇居に持参します。これに天皇陛下が「御名御璽」、所謂「署名捺印」をして、内閣総務官が内閣官房に持ち帰り、首相の副署を経て解散詔書が完成となります。

続いて衆議院本会議が開かれて、あの「お馴染みの儀式」が行われます。まず議長席後方の扉から官房長官が紫色の袱紗に包まれた解散詔書を黒色の漆塗りの盆に乗せて本会議場に入り、それを事務総長に手渡します。この解散詔書は現物ではありません。「写し」、つまりコピーで、解散詔書そのものは内閣官房に保管されます。

事務総長が中身を確認、その上で議長が文面を朗読します。この紙切れ1枚で、数秒後には、この国から一時的に衆議院議員という存在が消えることになります。

「ただいま内閣総理大臣から、詔書が発せられた旨伝えられましたから、朗読いたします。日本国憲法第7条により、衆議院を解散する」

すると、衆議院議員という身分を失い「ただの人」になったばかりの全員が一斉に立ち上がり「万歳」の雄叫びを上げます。衆議院解散は彼らにとって言わば「クビ切り」です。何がそんなに嬉しいのでしょうか。

万歳をする習慣は、1897年12月25日、帝国議会の頃にまで遡ります。当時の会議録によると、解散詔書の朗読が終わったところで、「拍手起リ『万歳』ト叫ブ者アリ」とあります。衆議院解散が「天皇の国事行為」であると同時に、解散詔書に天皇陛下の御名御璽があることに対する敬意の意味で行われたのが始まりのようです。

一方、選挙に向けて士気を鼓舞するための「景気づけ説」も有力です。真相は分かりませんが、どうも筆者には単なるヤケッパチの絶叫にしか見えません。