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トランプ政権の国防予算


2017年6月1日
佐藤丙午


トランプ政権は、政権発足100日を過ぎたものの、各行政機構の主要なポストに空席が目立ち、政策の方向性を展望するには不十分な状況にあります。ポストが未確定なのは、国務省や国防総省も同じ状況にありますが、その中で2018年連邦年度(2017年10月より)の政府要求が5月23日に発表されました。米国の予算は議会(立法府)が授権法と歳出法で決定する仕組みで、行政府は議会に予算を要求する立場になります。

政権の予算要求の内容は、オバマ政権の2016年度の予算と比較して約10%の増加の5745億ドルで、2011年予算管理法の下で議会が2017年度に規定した額よりも約9%の増加になります。国防予算としては、イラクとアフガニスタンでの作戦継続のために646億ドル要求されています。トランプ大統領は、選挙中に軍備増強方針を表明しており、今回の予算要求もその方針に沿ったものになっていますが、要求内容を精査すると、少なくとも来年度は抑制されたものになっています。

たとえば、空軍ではF-35、F/A-18、KC-46などの要求数はオバマ政権で予定された通りでしたし、海軍でも、トランプ大統領がかねてより主張してきた350隻体制が、2018年予算で実現するようにはなっていません。2018年の予算要求では、各軍の教育訓練、装備の維持整備及び更新(イラクとアフガニスタンで使用した武器弾薬や装備の補充)に重点がおかれ、いわゆる新たな兵器システムの調達計画が明確に打ち出されていません。トランプ大統領が主張していた、兵員の待遇改善(給与)も重視されていますが、全体的にみると、オバマ政権が提示してた2018年度予算と比較しても、約3%(約190億ドル)の上昇になっているにすぎません。

この予算については、国防タカ派からは「失望」が表明され、そしてこの予算が国務省の対外援助計画や国内政策の予算を転用することを想定していることなどから、国際派からは「反発」が、そしてこの予算自体を「悪夢」と呼ぶ議員も現れました。もちろん、トランプ政権は、単年度での予算大幅増額を意図しておらず、数年間にわたるプロセスを想定しているし、予算の決定権限は議会にあるので、政権の要求通り認可される保証はないので、現時点での評価は妥当ではないかもしれません。今回の予算要求では見送られた重点領域も、今後明確になってくるでしょう。

ただし、トランプ政権の下で、今後国防費の上昇が予見される段階にあることは明らかですし、その増加は単なる兵器の数に留まるものではなく、米国の戦略に構造的な変化をもたらし、その影響が長期に及ぶ可能性が高いことも考えておく必要があります。2017年G7直後にドイツのメルケル首相が欧州の独自路線の追求に言及するなど、米欧関係に軋轢が生じたこともあり、米国の国防予算の上昇が米国の世界戦略や同盟政策にどのような影響を与えるか、慎重に見据えていく必要があるのです。